ガニ股でオラついたり、迫力満点な着地をしたり(笑)クセが強すぎる美猫の姿に爆笑(ねこのきもち WEB MAGAZINE)

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ガニ股でオラついたり、迫力満点な着地をしたり(笑)クセが強すぎる美猫の姿に爆笑(ねこのきもち WEB MAGAZINE)
[MARKOVE]猫って運動神経がよくて、華麗にジャンプするイメージがありませんか?  でも、それはすべてのコに当てはまるわけではないようです。

Twitterユーザー@mugiiiii1001さんの愛猫・ちのさん([/MARKOVE]

[紹介元] ねこのきもち WEB MAGAZINE – Yahoo!ニュース ガニ股でオラついたり、迫力満点な着地をしたり(笑)クセが強すぎる美猫の姿に爆笑(ねこのきもち WEB MAGAZINE)

ガニ股でオラついたり 迫力満点な着地をしたり 笑

リズミカルな走りに合わせて、後頭部でまとめた黄金色の髪の毛が揺れる。その髪型の名前の通り、まるで子馬のしっぽのように。 本当なら煩わしいロングは辞めて、ばっさりショートにしようと考えたのだが周囲に駄目出しをされてしまった。ブラドノックだけであれば余計なお世話と突っぱねるところだが、ニースにまで言われては仕方がない。泣く泣くショートは諦めた。──とは言え、運動するのにやっぱりロングは邪魔。それでサシカイアの出した答えがコレ。ポニーテイル。 さて、基本怠け者のサシカイアがわざわざ運動しようなんて考えたのには、もちろん理由がある。 魔神将との戦いではっきりとした自分の問題点、己の肉体の貧弱さを解消するため。 肉体の貧弱さ。それは主に哀れな程の胸のサイズ──ではなく、体力の無さである。 確かに胸の方もかなり貧弱であるのは間違いない。胸を上から撫で降ろせば、ほとんど引っかかりもなく臍まで到達しそうな程の貧弱さ。しかし、サシカイア自身はあまり気にしていない。貧乳はステータスだ、希少価値だ、と声高に主張するつもりもない。どちらかと言えば、どうでもいいことに類する事柄だ。何しろ、見た目がいくら美少女エルフでも中身は男。下手に巨乳だったりしても始末に困る。あれはあれで色々と苦労があるらしいし、我が身で確認したいとは思えない。……我が身ではなかったら、別の感想を抱くかも知れないが。 話を戻す。 サシカイアが弱点解消のために自らに果たしたのは、毎日のランニングを中心とする体力作り。どれだけがんばっても所詮はエルフ、貧弱なのは変わらないかも知れないが、それでももう少し体力──HPが欲しい。文字通り死活問題なのだから。 と言うわけで、今日もサシカイアはマーファ神殿の敷地内でランニングをしていた。 さすがは本神殿、その敷地は十分な広さがあり、一回りするだけでもかなりの距離となる。おまけに山の斜面に張り付くようにして建っているため、起伏にも富んでいる。まじめに毎日ランニングをするだけでも、かなりの体力が付くだろう。 が。 困ったことに、サシカイアの中身はぼんくらである。その能力は高いとは言え、いきなり付いてきたモノ。そこへ至るまでの非常な努力をしてきたわけではない。 要するに、地道にトレーニングを継続する為の根気に欠けている。時間が経つにつれて、当初に抱いた危機感はあっさりと薄れてきている。それに連れて、トレーニングへの熱意もどんどん冷めていく。元々の世界でも、体力作りを考えたことはある。が、その為のトレーニングが長く続いた事はない。中身はそう言う人間である。そろそろ頭の片隅に、もう三日坊主じゃないよね、なんて思いが居座り始めている。天気の悪い日が来れば、嬉々として休養日に当てるだろう。そして、その休養日を過ごした後、トレーニングを再開できるかと問われれば、非常に微妙な感じである。あるいは、特に理由なんか無くても、明日にも休養日を作るかも知れない。 とは言え、今日はまだ天秤が、まじめに走ると言う方に傾いた。 息を荒くしながらも、ノルマとした周回を済ませ、ゴールと定めた本神殿隅の人気のない小さな空き地へ到達する。 人気のない場所をゴールとしたのは、最近、ペペロンチャの名前だけではなく、顔まで売れてきてしまったため。あの酒場、どうやら絵心のある者もいたらしく、ペペロンチャ直筆のサイン付きの美人画が、当人に無断で売り出されてしまったのだ。無断なだけに、もちろんサインが直筆というのは嘘である。マーファ神殿が即座にそれが嘘であることを発表してくれて、それで一山当てようとしていた件の男はつるし上げを食ったらしい。しかし、サシカイアがざまあ見ろと思えたのもつかの間。今度はマーファ神殿がおみやげ物として、ペペロンチャ公認の、自筆のサイン入り美人画を、ニースのそれと並べて販売しはじめたから元の木阿弥。どころか事態は更に悪化してしまった。こちらは交渉の結果、経費を除いたあがりの5割をサシカイアが受け取ることになって話がついた。と言うか、どうやらそのあたりを企画したらしいマッキオーレに文句を言いに行ったはずが、いつの間にか丸め込まれて、その条件を飲まされてしまった。何がどうなってそうなったか、未だによくわからないが、契約書にサインをしてしまったのは確か。ここでごねれば、違約金が発生してしまってよろしくない。 兎に角、下手に顔が売れてしまったせいで、本神殿から出れば非常に煩わしいことになってしまう。否、本神殿内でも、ちょっと油断すると男神官を中心にサインや握手を求められたりして、非常に鬱陶しい。それ故に、こんな隅っこの方へ引っ込んで、トレーニングをする羽目になっている。 ゴールしたらゆっくりと歩きながらクールダウン。 同じくこの小広場で剣を振っていたシュリヒテが、タオルを投げて寄越してくれたので、受け取って汗を拭う。 シュリヒテの事情も似たようなもの。つい先日までは神官戦士と一緒に訓練をしていたが、流石に相手になるレベルの者はいなかった。そして、有名で強いだけに指導を求められる。自分の訓練よりも神官戦士を指導してやる、そんな時間を多く取る羽目になり、それならばいっそ、個人でトレーニングした方が自分の為に時間が使えてまだマシ、なんて判断だ。 ちなみに他の2人、ブラドノックは現在、使い魔を作るための儀式中。どうやら烏を使い魔にすることに決めたらしい。これから先、女子更衣室や女湯周りで烏を見かけたら、問答無用で撃ち落とさなければならないだろう。30メートルまではシュートアローで一撃だが、それ以上の遠距離のことを考えると、レンジャーを伸ばして弓の技術を上げた方がいいかも知れない。 ギネスの方は難民キャンプでマイリーの布教をしている。同じ光の陣営の神様とはいえ、マーファ本神殿お膝元で、くそ度胸な話である。今のところ、マーファ本神殿からの正式な抗議は来ていないが、ヒヤヒヤものであることは間違いない。……なんと言っても辞めそうにないし、困ったものである。「ふぃ~、あちい」 今、ターバ村あたりは、一年で一番過ごしやすい季節だ。氷の精霊王フェンリルが生息している、なんて言われている白竜山脈を近くに持つせいで、このあたりはロードス島でも一番寒い地域だ。冬は長く雪に閉ざされ、夏は過ごしやすいが酷く短い。今は春が終わり夏に入り始めた頃。寒くもなければ暑くもない、ちょうどいい感じの気温が続く日々。 それでも運動をすれば暑くもなる。サシカイアは徒然考えながら、襟元を開き、ぱたぱたと手で扇いで風を送り込む。 その様子にシュリヒテがぎょっとした顔をして、慌てて視線を逸らすがサシカイアは全く気が付かない。 中身男なだけに、非常に無防備なのだ。 そのまま、サシカイアはストレッチで身体をほぐす。「あれは男、あれは男」 と現在髪型がポニーテイルなせいもあり、前屈したサシカイアのうなじ、そして汗で張り付いた後れ毛なんかが見えて、ちょっぴりドキリとしてしまったシュリヒテが、小声で自分に言い聞かせているのにも全く気が付かない。 サシカイアは女性としての動きが身に付いていない上に、警戒心が非常に緩い。下手にミニスカートなどはいた日には、サービスショットを連発してしまう事、確実である。「一回、勝負しないか?」 サシカイアは、シュリヒテが明後日の方を向いて手を休めているのを見て、休憩中と判断。提案しながら模擬剣を取り上げる。 シュリヒテは少し考えると、頷いてこれまで振っていた重り付きの剣を脇の木に立てかけると、やはり模擬剣を取る。それから、にやりと笑って言う。「何か賭けるか?」「……一回勝負。俺が一分保ったら、今日の飲み代はお前のおごり」 サシカイアは少し考えて、提案する。 勝ち負けではなく、サシカイアがどれだけ保つことが出来るか。2人の実力差は、そんなモノである。どちらも10レベルとは言え、シュリヒテは戦士でサシカイアは精霊使い。魔法抜きの近接戦闘となれば、サシカイアの使用できる技能はシーフとなり、これは5レベル。素早くて器用なサシカイアは攻撃力や耐久力を問わない当てっこ、避けっこならばかなり強いが、それでもシュリヒテ相手では厳しい。能力値に差はほとんど無いし、レベル差が大きすぎる。ゲーム的な強さ比べ、ごくごく単純にして言えば、レベルと対応能力値ボーナス(能力値を6で割った数字。括弧内の+3とか)の合計にサイコロ二個振って出た数を足して大きい方が勝つと言うルールで、レベル差5。この差は大きい。まともに戦ったら、サシカイアの勝ち目なんて有りはしないのだ。「じゃあ俺が勝ったら、お前の耳、触らせてくれ」「……」 サシカイアはジト目でシュリヒテを見つめた。「いや、だって、エルフ耳なんて触ったことないし、コレは純粋な興味からで不純な動機では……」 ぐだぐだとシュリヒテが言い訳をするが、本当に純粋な興味からかは微妙に信じがたい。 何時までも暗い顔をしているのも鬱陶しいが、立ち直り早すぎだろう。しかし、こいつエルフ耳萌えだったのか。これから先、色々と気を付けた方がいいかも知れない。ブラドノックだけでも大概迷惑なのに、更に面倒くさい話になった。あれ? 最近ギネスも鬱陶しいし、俺って心を許せる仲間いない?驚愕の事実に一瞬魂を飛ばしかけて首を振り、なんとか気を取り直してサシカイアは口を開く。「……訂正、俺が勝ったら、一週間お前のおごり」「いいだろう」 と、シュリヒテは自信満々で応じた。それでも勝てる、と確信している顔だ。 面白い、とサシカイアは唇をぺろりとなめて湿らせる。目に物見せてくれる。「それじゃあ、これが地面に落ちたら初めと言うことで」 時間を計るための砂時計をひっくり返し、彼我の距離を慎重に測りながら、サシカイアは近くに転がっていた石ころを拾い上げる。 シュリヒテが頷いたので、それでは、とそれを放り投げる。 加減して、シュリヒテの右、1メートルあたりに落ちるように。 そして、石ころが落ちた瞬間。「あばよ、とっつぁ~ん」 サシカイアはくるりと振り向いて、脱兎の如く逃げ出した。 ロードス島電鉄31 呪縛の島の魔法戦士「あれはいくら何でも卑怯だろう」 シュリヒテの当然の抗議を、サシカイアは耳のない様な顔をして無視をした。 追いかけっこになれば、敏捷度の高いサシカイアは一分くらい余裕でシュリヒテから逃げることが出来るのだ。通常、近接状態から逃げるときには回避にマイナス4のペナルティが入るのだが、それを避けるために距離を十分に取っていたし、何より意表を突いたせいで、シュリヒテはろくに反応できなかった。初動で優位を取れば、後はますます簡単な話である。「一分保ったら俺の勝ち。ルールはそれだけ」「しかしだな」「阿呆みたいな事を言うからだ」 サシカイアはにべもなく切り捨て、今度はまじめに模擬剣を構える。「さあ、今度はまじめにやるぞ」「それは俺の台詞だろう」 なんかなあ~、と首を振りながら、シュリヒテは剣を構える。 今度は特にスタートの合図も決めず、そのまま始める。 サシカイアはシュリヒテの周りを軽やかなフットワークで回りながら、隙を探そうとする。 しかし、気持ちを切り替え、まじめな顔で剣を構えるシュリヒテに、容易に隙を見いだすことは出来ない。前述の通り、そもそもサシカイアは格下、シュリヒテとはレベルが違うのだから。 このままシュリヒテの周りを回っていても、どうしようもない。バターになってしまう前に行動を開始すべきだ。 そう考えたサシカイアは一瞬身体の力を抜いて、脱力する。これで隙を作ってくれないかな、なんて考えながら、直後、一気にシュリヒテの懐に飛び込む。 のだが、当然シュリヒテは隙なんか作らず、サシカイアを迎撃。「のわっ」 振り下ろされた鋭い一撃を、悲鳴を上げつつ何とか翳した模擬剣で受けるが、そのまま潰されそうな圧力。模擬剣を斜めにして受け流し、やり過ごそうとするが、あんまり成功したとは言い難い。返す横からの斬撃を模擬剣で受け、その勢いを利用するように横っ飛び。即座に追いすがるシュリヒテの鋭い突きを、肝を冷やしながらぎりぎりで避け、大きく距離を取る。「こ、殺す気かっ!」 ばくばくと鼓動を高めた胸を押さえながら、思わず文句が口から出てしまう。「模擬剣だし、死にはしないだろ?」「最後のクエスチョンマークはなんだよっ!」「しかし、流石に早いなあ。今の突きは入ったと思ったんだが」「こっちはエルフなんだよ。華奢なんだよ。貧弱なんだよ。HP少ないんだよ。もう少し気を使えっ!」「大丈夫だって、今ならニース様もいるし」「蘇生前提? 冗談じゃないぞっ!」「じゃあ、今度はこっちから行くぞ」「話聞けよっ!」 残念なことにシュリヒテは聞く耳持たない。先刻の敗北が、よほど悔しかったのかも知れない。一気にサシカイアとの距離を詰めてくる。 うなじの毛を逆立てながら、最初の斬撃を受ける。その一撃で模擬剣を取り落としてしまいそうな圧力。手が痺れる。次撃はまたもや横殴り。大きく下がってやり過ごす。胸がもう少し大きかったら持って行かれていたところ。サシカイアは密かに己の貧乳に感謝する。一瞬でその距離は詰められ、袈裟懸け。何とか模擬剣を合わせるが、痺れはいよいよ強くなり、その次の一撃で模擬剣は手からすっ飛ばされていた。すっと静かな動きで、シュリヒテの模擬剣の切っ先がサシカイアの胸元に向けられる。 見事なまでにあっさりとサシカイアの敗北である。一分保ってない。攻撃なんて最初から放棄して、防御専念でコレである。まじめに戦えば、2人の実力差はこんなモノである。賭けでシュリヒテが強気になるのは、別段過信でもなんでもないのである。「これっ位で剣を吹っ飛ばされていたら、話にならないぞ」「だから、こっちは非力なんだよ」 勝ち目なんて無いと解っていても、それでも負ければ悔しいと、サシカイアはぶすっくれる。痺れる手をひらひら振りながら、すっ飛ばされた模擬剣を拾い上げる。「もう一勝負するか?」「もちろんだ、ぎゃふんと言わせてやる」 模擬剣を握りしめる手の調子を確認。とりあえず、痺れは取れた。「逃げるの無しな」 シュリヒテが釘を刺してくるが、コレは余計なこと。何も賭けていない訓練である。逃げては意味がない。「卑怯な手も無し」 それは約束できない。と言うか、まじめに戦ったら今の二の舞である。「それじゃあ──」 始めるか、と言いかけたシュリヒテに、サシカイアは掌を向けて止める。 それから視線を脇の茂みに向ける。「誰か知らないけど、のぞき見は感心しないな」 性的な視線には元の性別のせいもあって、どうにも無頓着なサシカイアである。あるいは、性的な視線を向けられていることに気が付きたくない、と言う心理が働いているという可能性もある。流石にブラドノックくらいあからさまであれば気が付くが、そうでなければ酷く鈍感で、無防備な動作で頻繁に周囲をどぎまぎさせている。しかし、それ以外の視線には割と鋭い。それは偏に、所持しているシーフ技能のおかげ。そうでなくとも相手がシーフ、あるいはレンジャー技能持ちじゃない素人臭い隠れ方だったと言うこともある。「ふむ」 と、それ以上誰かは隠れる気がないのか、声を出して茂みを掻き分けてくる。 男とも女とも判別の付きづらい中性的な声。知らない声。 ん?、と微妙に嫌な予感を覚えるサシカイアの前に、その誰かは姿を現した。 その誰かは、一言で言えば不審者。 百人に聞けば百人が、同様の評価をするだろう。何しろこいつ、仮面を付けているのだ。これ以上ないくらい不審だ。仮面ともう一つで顔の大半は隠され、外気に曝されているのは口元くらい。身長は高くもなく低くもなく、ゆったりした格好のせいで身体のラインが見えず、声同様、男とも女とも解らない。腰に佩いた剣の存在もあって、とりあえず戦士であることは解る。身のこなしから見て、シュリヒテと同レベルの戦士。 それだって十分に驚異的な話だが、そんなモノは二の次で、サシカイアの視線はその誰かが顔に付けているもう一つ、額のサークレットに引きつけられた。 不思議な光を宿す宝石を二つ、まるで両の瞳の様に埋め込んだ特徴的なサークレット。魔法のかけられた気配も、びんびんに感じる。 ロードス島シリーズの読者としての知識が、この誰かの正体を簡単に判明させた。「なっ、カーラっ!」 シュリヒテが驚きの声を上げる。 そう。 この誰かはニースと同じく6英雄の1人、その伝説に名前を残さなかった魔法戦士。原作の戦記でシリーズ通しての主人公パーンの敵役。灰色の魔女カーラだった。

<モーツァルト!12月6日(木)12:30>11月ファンキー度に拍車がかかるアッキーに、いくところまでイッちゃったかな?と感じていましたが、まだまだ変わっていきます。どこまでも伸びる声、独特な歌い方やヴォルフが宿ったかのような迫真の表情、ときには秒速10回くらい震える手、ほとばしる汗はそのままで、リズムより先に走ることを控え、丁寧に落ち着いてメッセージを伝えようとする姿勢がとても大人!そして本能に任せるのでなくて、頭で考え直して観客の目を意識した演技が増えたように感じました。「突きつけ型」のお芝居が「エンターテイナー型」寄りになった。声も高音の伸びは残したまま、低音も丁寧に響かせているので声だけでもより大人になった。感情をぶつけるだけでなく、考え悩みつつ言葉を選び逡巡しつつ、という過程が前よりしっかりとわかりやすく提示されていたように感じ、その目配りが大人になった、と感じた。具体的にどこ、というより全体的に。もしかしたら彼のなかで大きな見直しがなされたのでは、と思えるほどです。今まではアッキーのヴォルフはどこか疲れるというか、明るいシーンでもどこか憂いというか運命の暗さを肩にしょって影がある「常に痛々しい」ヴォルフでしたが、今日は、明るくはじけたシーンは、心からハハハと笑える楽しいヴォルフだったこと。井上くんのヴォルフを意識したかどうかはわかりませんが、明るさはより輝度が増した分だけ、ほんとうに悩み葛藤に苦しむシーンのアッキーの表情がよりインパクトの強いものとして、劇としてめりはりが大きくなったように感じ、心から「アッキーの作りだすお芝居」を楽しむことができたと感じました。その影が色濃くなり、立場の逆転で陰鬱に包まれるのが、1幕最後のアマデに突き飛ばされて「影を逃れて」を歌いだすあたり。ここまでは喜劇、このあとは悲劇というくらい、はっきりと舞台の色が変わるように思え、そうなると、コロレド様をかばうようですが(笑)あの面白場面なども喜劇的にこころおきなく楽しめるのです。2幕のコロレドがひとつも喜劇的行為をしないのもすっきりし、なんとなく整合性がでてきたように感じる。2幕のヴォルフが宿命に呑み込まれていきついにアマデと共に果てるまでの一瞬一瞬の表情がすべてせつなく、各所で号泣していました。とくに父に去られて歌う「何故愛せないの?」と父の死後パパのメロディーで「心を鉄に閉じ込め」を途切れるように歌うアッキーには嗚咽が漏れそうなくらい感情が乱れました。アッキーは前よりずっと観客を意識し凝視するようになったような気もします。数列目センターだったせいかアッキーと何度か目が合ったような気がします。涙でにじむアッキーの目はそれはそれは人を揺さぶる色をしていました。アッキーの見栄を切るような挑むようなセリフの喋り方があったり前より落ち着いて大人っぽくそして明るく楽しげに響くため、吉野さんのシカネーダーのテンションともバランスがよくなり、二人の場面は心から楽しめました。今まではアッキーが吉野さんに圧倒されているように見えたこともあったかも。前のほうにアッキーや涼風さんのファンがたくさんいらしたようで、カーテンコールはまとまった歓声が挙がっていました。コロレドの了解はとりつけた、のところですが、香寿さんは「女」を使い、涼風さんは「知恵」と「お金」をつかってとりつけた、というような違いを感じました(独断ですよ)香寿さんは全体的に色っぽいのです。ここはウィーンで最後にはけるところ、マイクに入らない声で「さあ、まいりましょう!」の男爵夫人の声が聞こえました。香寿さんのときはなぜか気付きませんでした。2幕のモーツァルト!モーツァルト!でのコロレド猊下と一緒に歌うところも、澄んだ声どおし相性がいいように思え、来年のエリザベートの「私が踊る時」がちょっぴり楽しみに♪さて、やっと祐一郎さん(コロレド猊下)のレポです。1幕登場シーンはちょっと素の祐一郎さんが残っている声で、猊下らしさやや低め。脚ももっと前みたいに大きく前に蹴りだして欲しいな。(無理ですか?)そしてじろっと前をみるところも、きょうは何故か優しげだった。サボるな、もあまりきつくなく、アッキーがテーブルで暴れてもなんだか優しく見守る親戚のおじさんみたい。本気でカッカしている感じじゃなし。今日はゆっくり猊下らしくなった感じです。今日はなんだかソフトにいくのかな?と思いましたら・・・。馬車の場面。馬車に乗っているうちから、ああ、おおぉ~、あっあっ!と既に悶えはじめ、ふーふーと息をつきながらやっとのことで降りるとひとこと、「今日寒いから・・・」思わずでてしまったつぶやき祐ちゃん!に、会場爆笑でした。声が素の祐一郎さんぽかったのがツボです。猊下!あんなに衣装をたくさん着こんでそれでも寒いなんて!!贅沢ですよ~ん!ありえない角度の内股キープで前も後ろもしっかり押えつつ、つんつん、びよよーん!と倒れこむようについたての後ろへ。そのときお尻~腿のあたり(あ、もちろん衣装着てます^_^;))がちらっと見えてしまったのですが、あまりにスリムでびっくり!!肉が落ちすぎてきっと寒さに敏感になってしまったのでしょう!(下半身の肉、お分けしてあげたい)ここで替え歌を1つ♪(雪やこんこんのメロディーで)「アッキーは喜び、帝劇駆け回り♪ 猊下は寒さで 近くなる~♪」一緒に歌ってくださり、ありがとうございます(笑)馬車でもオヒゲにちょんちょん触ってみたり、ウィーンの街中がわたしをねたむ~と色っぽい声で歌いつつ、上手をぐるーんと見渡したり、コロレド絶好調に!なってきていまして、馬車に戻ってからも、アルコとアクシデントにしてはやけに楽しげに手遊びみたいに手と手を触れあって、もう汚いよぉーといわんばかりに手をみつめてみたり、遊び心満載で、楽しいひとときでした。お取り込みシーンは、影絵がやっぱり可笑しすぎです。女性の手に触れようとせず、ゆらゆらとイソギン踊りをそれぞれがしている感じ。でも、扉が開いてからは、女性のお胸を顔や手でぽわん、ぽわん、せんばかりに近づけ(寸止め?)結構ドキっとします。一瞬ですが。で、「なにごとだ!」が眠気が残ったような顔でまつげがぱちっとしていて可愛い。乱入がヴォルフと分かってからは、女性たちのことはもう頭になく、ヴォルフのことで100%になっているのが好き。(でも女性にガウン着せられたり触れられているとき、猊下はなんだか嬉しそうですし、「お前は~ウィーンでのたれ死ぬぞ♪」などといいつつ、ここは声が限りなく優しくって潤っていてセクシーなのがまた憎い!かつらはどうしてかアッキーはヒット率低いですねえ。またはずれました。今回井上くんが少ないせいか、かつらヒット→猊下の声だし、というパターンにまだ遭遇していないのが残念(笑)です。どうしても鬼にボールぶつける遊び思い出しそうですが。おまえほどふゆかいなしもべはみたことがないめざわりな役たたずめ!のあたり肺活量の多さを見せ付けつつ一気にしゃべり、蹴飛ばしてな!と甲走ってアルコに命じたあと、前はけっこうすぐ後ろ向きになるのに、今日はアッキーをみて心配顔で見守っている時間が非常にながく、ファンとしては(あの紫ガウンの後姿ももちろん好きだけど)とても嬉しかったです。今回のコロレド猊下は茶目っ気+人間味が強く感じられて、とても魅力的です!2幕の「神は何故許される?」では今までにないほどのびんびんと響く声で体中が快感で包まれました。このソロの間はレオポルトが入ってくるので、ちょっと途切れますが、レミゼの独白のように体中を硬直させるほどの緊張感を保ちつつ見てます。最後の音楽の♪魔術~がまさに祐一郎さんの声帯のためにあるような部分で、アテガキでしょうか(笑)「いま悟った!」「神よ」など一部祈りのセリフ調で歌っていて劇的でした。「サルでも」はやはり今年は叫ばないバージョンなのかな。最後のつくりだっす!(沈黙 with 四白眼)のところは、あと2つ3つ下手だったら、また硬直の時間だったかも。残念ながら今日は場所がズレてました。でも、2幕のフィナーレで、猊下が人の間から前に歩いてでてくるところは、ちょうど目の前で視線がぶつかる錯覚をあじわえる至福のひとときですが、別にそういう位置に顔が向いてるだけなのに、勝手に恥ずかしさと緊張に耐えられなくなりそらしてしまいました。(ハハハ。勘違い=幸せです)市村さんはやっぱり元気がいまひとつで出遅れそうになるところもありましたが、芸がその分よくて、ナンネールやアッキーとのシーンで涙が何度もでました。早く曲をつくれ、ではかなり本気で顔をぴしゃっとたたき、そのあともチョップチョップ!のジェスチャーなど。コンスは・・2幕のソロのあとからの声の出し方がどうも平べったく聞こえ「ムーミン」調な声になるのが苦手。頑張ってて自然なコンス像になってきていて歌声も悪くないのですが、この声で現実に引き戻される。そもそも誰がやっても、ヴォルフに「でていけ」と出されるシーンや、トランク下において歌うシーンや、パパの死をナンネが知らせに来たシーンで、コンスがハモって歌う部分は「うざく」(こういう言葉嫌いなのですが)感じられる?(省いてもいいな)脚本なのがアレなのかも・・。難しい役です。カテコは市村さんがなにやら言葉にできない不思議なダンス?をやり、祐一郎さんは楽しげに見守ってました。男爵夫人の切り替わりやアッキーの熱演もあってかスタンディング。といってもカーテンが閉まって追い出し曲になってからなので、アッキーファンが最初に立ったのかな?追い出し曲を聴いただけで場面を思い出し、またうるうる。アマデは初の田澤さん。顔に特徴がありやはり表情はない。でも真嶋さんとも全然違い、やや日本的?で小柄。シカネーダの所でピアノの下で音をうるさがって耳をふさいでる表情が漫画のように面白くて可愛いかった。

淡く白い輝きを宿すシュリヒテの剣と、赤い光を灯す魔神将の三日月型ポールアックスが打ち合わされて、魔力の火花を飛ばす。返す刃が再びかみ合う。一合、二合、三合、稲妻のごとき斬撃の応酬が繰り返され、その度毎に両者の気迫は高まり、戦いは激しさを増していく。 シュリヒテは強かった。 人はこれほどに強くなれるのか。 そう感心してしまう程に。 反射神経、運動神経は冗談じみたレベル。今の攻撃を何故かわせる?、何で今の攻撃で頭を持って行かれないですむんだ?、と見ているサシカイアは感心することしかできない。 はっきり言って、ベルドとかファーンとか、これ以上に強い人間が存在することが信じられない。 それほどにシュリヒテの強さは極まっていた。 しかし。 それでもなお。 魔神将には届かなかった。 ロードス島電鉄24 激突─DUEL─「ベルドはどんだけ化け物だよ」 思わずそんな言葉がサシカイアの口から零れてしまう。 魔神将を魔法の援護を受けているとは言え、一騎打ちもどきで下す。そんな真似のできるベルドの強さとは、一体どれだけのモノなのか。上には上がいる。そんな言葉があるが、それにしたって限度があるだろう。 一騎打ち、激しい戦いを繰り広げているシュリヒテと魔神将。 サシカイアのレベルでは、その剣尖の煌めきを目で追うのがやっと。身体なんてあたりまえに付いていかない。振り回される刃の範囲内に入ってしまえば、為す術無く切り刻まれて終わりだろう。文字通りにレベルが違いすぎる。 シュリヒテの強さはまさしく極まっている様に見える。これまでいささか持て余していた感のある10レベルファイターと言う技能を、十全に使いこなしている。あるいは、それ以上に。ここに来てようやく、心と体が噛み合ったとでも言うべきか。力に振り回されることなく。精神に引きずり降ろされることもなく。その高いスペックを見事に発揮している。 だが、それでもなお、魔神将には届かない。 鋭く横殴りに振られたポールアックスの刃が、シュリヒテの鎧の胸甲を掠め、耳障りな擦過音を立てて通り過ぎる。至近を掠めた死に萎縮することなく、この隙にとばかりに踏み込み、全身の体重をかけるようにして振り下ろしたシュリヒテの剣は魔神将に届かず。不十分な体勢から振り回されたポールアックスにはじき返されてしまう。今度はシュリヒテの体勢が崩れかけ、そこへ鋭すぎる刺突。なんとか盾を割り込ませる事に成功するが、足が浮いて短く空中遊泳。すぐに着地するも後方へ向けて数歩下がる事になる。そこへ踏み込み魔神将が斬撃。無理矢理踏みとどまったシュリヒテも渾身の斬撃を返し、かみ合う刃と刃、魔力の火花が散り、お互いに数歩ずつ後ろに下がることとなる。「ふわっ」 一度間を取って伸し切り直し。サシカイアは気づかず止めていた呼吸を再開する。 心臓に悪い。悪すぎる。 スピードだけであれば、シュリヒテは魔神将に引けを取っていない。だが、体力はもちろん、筋力も大きく水をあけられている。シュリヒテが全力、思い切り体重を込めての斬撃を繰り出しても、魔神将の方は腕先だけのスイングで容易くはじき返してしまう。 おまけにリーチが違う。身長で負けている上に、相手は身長に比して長い腕を持っている。おまけに武器も長柄のモノ。シュリヒテとしては相手の懐に飛び込みたいところだろうが、魔神将は容易に許さず。結果、遠い間合い、相手の武器は届いてシュリヒテの武器は届かないという距離での戦いを強制されている。 幸いなのは。 いや、幸いと言っていいのか。 魔神将はどこか、戦いそのものを楽しんでいる風がある。 追撃がどこか控え目で、一気に畳み掛ければいいのにそれをしない、そんな場面も何度と無く見えた。逆に、それが故に堅実で隙が無く、なかなかシュリヒテが効果的な反撃に出られないというデメリットもあるが。少なくとも、こうして長く戦えているのは、理由の半分以上をそれに求められるだろう。 そして、幸いと言いきれないのは、魔神将が勝つためにはそれでも十分だと言うこと。 シュリヒテの息が荒くなってきている。 こちらは先から戦い詰め。いい加減疲労もたまってきている。今はまだ、シュリヒテ本人が疲労を大して自覚していないだろう。かなり感情的に突っ走っていることもあるし。己の疲労度になんかに無頓着、気が付いていない様に見える。だが、いずれ気が付く。気が付かないはずがない。体力は無限でないし、気持ちだけで何時までもごまかせるモノではない。そして気が付いてしまった時、それで一気に崩れる可能性が高い。 魔神将はまったり戦いを楽しみつつ、のんびりとその時を待てばいいのだ。どう見たって、魔神将の方がシュリヒテより体力がない、なんて大どんでん返しはあり得なさそうだし。「くそ、なんて役立たずだ」 己を罵る。 戦いを見ていることしかできない。その不甲斐なさ。これ以上の魔法行使をすれば限界を迎えてダウンしてしまうか、あるいはあの咆哮でとどめを刺されてしまう。時折、魔神将はこちらへ視線を送ってくる。警戒か? とにかく、こちらが魔法を使えば、待ってましたとばかりにあの咆哮がくるだろう。かといって短剣握りしめての参戦も無謀。どう考えたって一撃で開きにされる未来しか予想できない。あるいは、最悪シュリヒテの足を引っ張る結果にもなるか。無力で無能。涙がこぼれそうだ。 サシカイアの視線の先で、シュリヒテが相手の攻撃の力を利用し、盾で受け、受けたその勢いのままに大きく後方に飛ぶ。距離を取って仕切り直しか。「は~っ」 大きく伸びをするように息を吸い、そのまま身体を縮め、力を束ね、弾ける。シュリヒテは一気に魔神将に向かって飛び込む。 自分が不利とかそうでないとか、そんなことは全く考えていない。シュリヒテは何処までも前がかり。 しかしこれは無謀とも思われる突撃。万歳、神風アッタク。 魔神将は慌てず騒がずにポールアックスを振り下ろす。 その凶悪な斬撃を──「くぐった?」 ブラドノックの歓声。 シュリヒテは身をかがめ、髪の毛を吹き散らされながらも際どく頭上にやり過ごす。「入った!」 一気に魔神将の間合いの内側へ。 慌て気味に返されてくる魔神将の攻撃を更に身を低くして再びくぐる。今の距離だと、今度はこれまで利点だった武器の長さが邪魔になって持て余すことになる。今の攻撃は正確さも力強さも欠いていた。 これが最初で最後のチャンスとばかりにシュリヒテは全力の斬撃を魔神将に振り下ろし──かけて慌て気味に首をねじ曲げる。 がつん。 と、シュリヒテの顔の横でかみ合う牙。「かみつき?」 ライオン顔は伊達じゃない。とばかりに、魔神将のかみつき攻撃。食らい付けば肉どころか骨までごっそり持っていきそうな凶悪な牙が、口の中に覗いている。 無理矢理顔を背けたシュリヒテの斬撃はそれでも魔神将の右の肩口に叩き付けられ、止まった。バランスの崩れた状態からの、ろくに力も体重も乗せられていない一撃は、魔神将の身体を浅く切り裂いたのみ。ほとんど当たっただけでダメージは皆無に近い。 がつん、がつんと追いかけてきて顔の至近で噛み合う牙を必死で避けながら、シュリヒテはほとんど無効と終わった剣を引こうとするが、魔神将がそれを許さない。あっさりと貴重な得物であるポールアックスを投げ捨てた右腕で、刀身を押さえて離さない。「──!」 シュリヒテが力を込めて剣を引く。が、彼我の筋力の差がここで響いた。両腕で対抗しても剣を取り戻せない。 そこへ牙が迫る。 のけぞるようにしてかわすシュリヒテの顔の真ん前、本当の鼻先で牙が噛み合う。 ほとんど倒れかけのシュリヒテ、体勢が拙い。 そこへ、かぎ爪の生えた左腕が振り下ろされようとしている。 長柄の武器だから懐へ飛び込めば何とかなるかも知れない。 そんなモノは幻想だった。 こいつは、武器なんて持って無くても十分以上に戦えるのだ。 為す術もなくかぎ爪に切り裂かれるシュリヒテを幻視するサシカイア。 しかし、シュリヒテの方はそんなにあきらめが良くなかった。 崩れた体制、のけぞって後ろに倒れかけの体勢から、地面を蹴りつけて飛び上がる。ちょうどうまい具合に剣を魔神将がつかんでくれている。そこに半ば体重を預け、さらに魔神将の膝を蹴って高く身体を持ち上げる。 ほとんど地面に対して身体が真横になりつつ、背中の下に魔神将の左の一撃をやり過ごす。 さらに。 重力に引かれて落っこちる前に剣に身体をたぐり寄せ。剣の鍔を掴み、身体を丸めて両足を束ねると、思い切り魔神将の胸を蹴りつける。 伸び上がる全身の力。 流石に片手でこれに対抗することは魔神将にもできず。 その手から剣を引っこ抜くことに成功。 思い切り胸を押された格好の魔神将は後ろへ蹈鞴を踏み。 その間にシュリヒテの身体は短く空中遊泳した後、地面に落っこちる。しっかり受け身を取り、ごろごろと転がって距離を取ると、すばやく立ち上がる。 これなんてワイヤーアクション? インド人も吃驚。じゃなくて、シーフ技能持ちのサシカイアでも吃驚してしまう程のアクロバット。 しかし、それでもなお、仕切り直しただけ。魔神将は懐に飛び込んでも容易く倒せるような相手ではないとわかってしまっただけの結果。 構えるシュリヒテの視線の先で、魔神将はゆっくりと投げ捨てたポールアックスを拾い上げる。 隙だらけ? いや、悠然としたその動きが、容易に飛び込ませない。飛び込めない。わかってしまうのだ。できるならやってみろと、相手がそれだけの余裕を見せられる、強者であることが。 魔神将はポールアックスを担ぐと、右手の平をぺろりとなめる。先に剣を引っこ抜いた際に、その掌を切り裂くことに成功していたのだ。──とは言え、大局に影響のないかすり傷であるが。 己の血をなめ取った魔神将は、獰猛に笑う。楽しそうに。嬉しそうに。「GAOOOOOOOOOOOOOO」 今度の雄叫びは、魔力を伴わない純粋な歓喜の雄叫び。 戦いを楽しんでいる。戦いそのものに喜びを見いだしている。そんな確信を新たにする。 魔神将はゆったりとした動きから急転。神速の踏み込みでシュリヒテに襲いかかる。 嵐の様な斬撃、斬撃、斬撃。その全てが、当たれば必殺の一撃。 シュリヒテはそれをかわし、はじき、いなし、盾で受けて防いでいく。 しかし、徐々に押し込まれていくのが傍目にもわかる。魔神将の重い攻撃に押され、反撃の手数が目に見えて減っていく。あっという間に防戦一方になってしまう。そしてその防戦も危うい。 盾は魔力を帯びた素性のよろしい逸品だが、そんなこと無関係とばかりに今にも叩き割られそう。実際、表面が傷だらけに、縁も欠け始めてきている。剣の方も同様か、気のせいだと思いたいが、魔力の淡い光が弱まってきているようにすら思える。 がしんと、激しい音を立てて一撃がシュリヒテの鎧、その右の肩当てをすっ飛ばす。 必死で割り込んだ返す斬撃は、激流のごとき魔神将の攻撃の前にはじき返され、お返しの一撃が頬をえぐる。血が舞った。体勢が崩れたところへの攻撃を何とか盾をかざして受けるが受けきれず、身体ごとすっ飛ばされてしまう。 地面をごろごろと転がるシュリヒテ。 魔神将はそれを傲然と見下ろす。 今追撃すれば確実にシュリヒテを倒せたのに、それをしない。 もっと自分を楽しませろと、その顔が命令している。「くそ、むかつく顔しやがって」 その顔の意味を悟り、シュリヒテは罵りつつも立ち上がろうとして。 膝が崩れた。 限界。「まだだっ!」 どなり、己で膝を殴りつけて叱咤。シュリヒテが立ち上がる。 まだ戦える。そう言って前に出る。 しかし。 シュリヒテは自覚してしまった。 己が疲れていることを。疲れ果てていることを。 激しい呼吸に肩が揺れ、あえいでいる。動きは軽やかさを失って、重い荷物を背負っているよう。「──くっ」 ダメだ、もう、魔神将の相手にもならない。 それを悟ったサシカイアは、矢も楯もたまらず、己の短剣を握りしめて前に出ようとする。 その肩を、ブラドノックが捕まえる。「よせ、無理だ」 そう無理だ。指摘されるまでもなくわかっている。 自分程度では、高々五レベルシーフでは、相手にもならない。そうでなくても脆弱非力なサシカイアである。魔神将の重い一撃の前に、抗する術はない。よしんば攻撃を当てたとしても、分厚い防御力を貫く力はない。 わかっている。 そんなことは先刻承知。 しかし。 それでも。 たった1人。 勝ち目の欠片も見えない敵に。 全身細かな傷だらけ。 満身創痍で疲労困憊。 それでもまだ向かっていこうとする馬鹿を。 ──放っておくことなどできない。「ダメだ。お前が行っても足を引っ張るだけだ」 ブラドノックの叫びがサシカイアの足を止める。 前に出ても、助けにもなれない。 それどころか、足を引っ張ることしかできない。 残酷な現実。「くそっ」 それが自分でもわかってしまう。わかっているのだ。 だから、サシカイアは罵ることしかできない。 できなかった。 絶望的な状況。 それをひっくり返す奇跡を起こすのは。 誰からも、すっかり存在を忘れられていた男だった。

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ロードス島電鉄 DICTIONARY 幻想用語の基礎知識 第一版 色々、わかっているつもりで書いて、知らない人を置いてきぼりにしているので、作ってみました用語集。 でも、読んでも、わからないものがわかるようになるか微妙なモノになってしまいました。 自分用のメモみたいなモノになってしまったかも。 目を通さないと続きがわからなくなるとか、そう言うことはありません。 気楽にスルーして頂いて大丈夫です。【あ行】アイシグ 【人名】・ライデン評議長。・ウォートにそそのかされて、百の勇者の演説をしました。・以来、演説の楽しさに目覚めてしまったようです。アイスエッジ 【アイテム/オリジナル】・氷の短剣。・これを抜いていると、氷の精霊フラウの力を借りられます。・単純に+2にするよりは他の効能を、と考えた結果のオリジナル武器です。アザービースト 【モンスター/魔神】・魔神の眷属。・いくつかの動物を組み合わせたような姿形をしている。・モンスターレベルは4。アダモ 【地名/オリジナル】・この物語、始まりの町。・二度に渡る魔神の襲撃によって、住民はほぼ全滅。・トリスはこの町の宿屋の看板娘でした。アミバ 【人名】・何となく、この名前がないとダメだと思ったので。アラニア王国 【国】・ロードス北東部に位置する歴史ある国です。・別名千年王国ですが、現実は500年程度だったりします。・歴史が長い分、内実はかなり腐敗しています。・北部にドワーフ族の「鉄の王国」、支配に否定的なマーファ本神殿が存在していて、目の上のたんこぶ状態です。アレクラスト大陸 【地名】・ロードス島の北に位置する大陸。・SWのメイン舞台です。イブリバウゼン 【モンスター/魔神】・魔神将。・魔法に長けているらしいです。イリーナ・フォウリー 【人名】・公式、真SWリプレイ準ヒロイン。・他の皆が違うと言っても、エルフスキーにとってはマウナがヒロインなんです。・ベルド以上の筋力25を誇るファリスの神官戦士。イルカ 【地名/オリジナル】・ゴブリンが近くに住み着いてしまって困っていました。・シュリヒテの血を引く子供が誕生するかも知れません。ヴァリス神聖王国 【国】・ファリスを国教とする国。・でも、結構腐ってたりします。・ファーン、フラウスはこの国の人間です。ヴァルブレバーズ 【モンスター/魔神】・腕が特徴的な魔神。・SW2の魔神も出しますよ、と言う予告的に登場させました。ウィル・オー・ウィスプ 【モンスター/精霊】・光の精霊。・光源としても使えますが、ぶつけることで攻撃魔法としても使えます。・クリスタニアだと、確か防御力無視のダメージを与える強烈なモノでしたが、残念なことにロードスではそれほどでもありません。ヴェノン 【国】・モスの国の一つ。・別名ドラゴンスケール。・領土的野心が大きく、色々動いて悪者みたいな立ち位置です。・でも、がんばってる感がして結構好きです。ウォート 【人名】・6英雄の1人、世界最高レベルの魔術師。・荒野の賢者。・百の勇者はこの男の発案による。ウド 【地名/オリジナル】・コーヒーは苦いです。・魔神に襲われて壊滅しました。エール 【飲み物】・麦酒と書いてルビを振る。・ビールのようなモノと認識しています。エフリート 【モンスター/精霊】・炎の精霊王。・破壊を司ります。・一般的に、エルフは炎の精霊を嫌います。・間違えてイフリートとかになっている場合も多々あります。エミル 【地名/オリジナル】・ゾンビに襲われた村です。・ペペロンチャが神の如く崇められています。・流石にこの村では、シュリヒテの血を引く子供は生まれそうにないです。エルフ 【種族】・亜人、森の妖精族。・一般に精霊魔法に長けています。・寿命は約1000年で、20才くらいの容姿になったら老けません。・笹穂耳が特徴で、髪の色は明るい金や銀なんかが多いです。・ぶっちゃけ、大好きです。オバマ 【地名/オリジナル】・アラニア王国第三の都市。・多くの街道が交差する重要地点。・誘拐やら拉致やらをする山賊団に困らされていました。【か行】カーラ 【人名】・6英雄の1人、古代魔法王国の魔術師。・灰色の魔女。・正体はサークレット。・光と闇のバランスを取ることこそが、破滅回避のための最善手と信じ、歴史の裏側で暗躍しています。・魔神戦争では、闇の勢力(魔神)が強すぎる為、バランス取りに百の勇者に協力しました。カダフィ 【地名/オリジナル】・魔神ティキラによって作られた町。・シュリヒテの血を引く子供が誕生するかも知れません。カノン王国 【国】・アラニアに次ぐ歴史を持つ国。・ぶっちゃけ、特徴もなければ売りもない国。・だから、英雄戦争であっさり占領されます。カルーア 【人名/オリジナル】・リキュール。・女の子は、こいつで作ったカクテル、ブラックルシアンやホワイトルシアンには気を付けましょう。・甘いけど、アルコール度数がヤバイよ。ギグリブーツ 【モンスター/魔神】・人型4枚羽根の上位魔神。・魔法が得意で、ゾンビとか作ってます。・シュリヒテに片手を切り飛ばされた奴が一匹逃げ延びていますが、特に伏線とか考えていません。ギネス 【人名/オリジナル】・黒ビール。・かなり低カロリー。クラーケン 【モンスター/精霊】・水の精霊王です。・どうせならカルドセプトのダゴン様みたいだったらいいのに、手足のある鯨の化け物みたいです。・敵対すると、緑豆や海の牧羊犬みたいなキチガイ犯罪者集団に狙われるかも知れません。GM 【神】・俺がルールブックだ。・現在、何してるんでしょうかね。グルネル 【モンスター/魔神】・青銅色の肌をした魔神。・魔剣を持ってたりします。ゲルダム 【モンスター/魔神】・魔神将、やぎさんチームボス。・ベルドに倒されました。・息が臭くて、下手するとそれだけで殺されてしまいます、注意しましょう。ケルベロス 【モンスター/魔神】・魔神の眷属。・三つの首を持つ大きな黒犬です。・ヘルハウンドの変種だと考えられています。・火を噴きます。光晶石 【アイテム】・魔晶石の種類の一つ。・合い言葉を言うと光って周りを照らします。抗魔の護符 【アイテム】・カウンターマジックの効果を持つ護符です。ゴブリン 【モンスター/妖魔】・初心者の友。・最初のシナリオは、適当なダンジョンにこいつを放りこんどけば大丈夫です。コンシールセルフ 【魔法】・古代語魔法。・見えない聞こえない臭わないと、覗きに最適。【さ行】サシカイア 【人名/オリジナル】・イタリアワイン。・トスカーナの宝石。・サッシカイアの方が表記として正しいかも知れませんが、語感からこちらを選択しています。シースルー 【魔法】・古代語魔法。・モノを透過して見ることが出来ます。・着ている服だけを透かすとかも出来るみたいです。・ブラドノック、自重。シェイプチェンジ 【魔法】・古代語魔法。・対象が良く知るものに変身できます。・サイズの制限があり、極端に大きなモノ、小さなモノには変身できません。・術者限定です。ジャック・オー・ランタン 【モンスター/アンデッド】・カボチャ頭の亡霊。・ハロウィンのアレ。シュートアロー 【魔法】・精霊魔法。・風の精霊の力を借りて、百発百中の矢を放つ魔法。・実はあんまり効率は良くないのですが、それでも多用するのは、単純に格好良くて好きな魔法だからです。シュリヒテ・シュタインヘイガー 【人名/オリジナル】・ドイツ特産のジン。・シュリヒテはシュタインヘイガーの中では一番有名らしいです。勝利の女神の護符 【アイテム/オリジナル】・アミュレット・オブ・ペペロンチャ。・マーファ神殿が売り出したお守り。・特殊な効果はありません。・中身が本物かどうかは、とりあえず秘密。シルフ 【モンスター/精霊】・風の精霊です。・ジンの子分?・マッパの少女の姿みたいです。・スカートめくりに最適な精霊。ジン 【モンスター/精霊】・風の精霊王です。・サシカイアがちゃんと呼び出せていれば、ぼーはははー、と笑いながら登場させるつもりでした。・個人的なイメージは、アラビアンな巨人。スカード 【国】・モスの小国。・魔神戦争の発端となった国。・ここのエールは美味しいらしいです。スポーン 【モンスター/魔神】・魔神達が黄金樹の枝から作った魔兵。・いわゆる雑兵。スリープクラウド 【魔法】・古代語魔法。・眠りに誘う雲を発生させる魔法。・将来、アレクラスト大陸の一部では、遺失魔法とされます。セーブソウル 【魔法】・神聖魔法。・アンデッドなどになり、穢れてしまった魂の救済をします。背中毛の拷問 【拷問法】・ロマール盗賊ギルドで行われている拷問。・半裸、マッチョの精鋭部隊が、ピンセット片手に、対象の背中毛の長さを測り、抜いて尋問や拷問をしているらしいです。・元々はリプレイ中の軽口が、ネタとして何度も繰り返されるうちに、半ば公式化したものです。ゾンビ 【モンスター/アンデッド】・いわゆる動く屍。・モンスターレベルは低いけど、現実に相手にすることになったら、臭いわ汚いわビジュアル最低だわで、色々大変だと思います。【た行】ターバ 【地名】・ロードス最北の町。・マーファ本神殿が存在する。・書いている人の勝手なイメージは長野市と善光寺。ダブラブルグ 【モンスター/魔神】・人に化ける魔神です。・ドッペルゲンガーの劣化版です。魂砕き 【アイテム】・魔剣ソウルクラッシュ。・対魔神王の為の武器。・でも、現在の所有者は魔神王。タンカレー 【人名/オリジナル】・イギリス産のジン。・ケネディとかが愛飲したらしいよ。チャーム 【呪歌】・この歌を聞く者を魅了します。・歌い手ではなく、歌に惚れ込みます。・歌詞にして欲しいこと、教えて欲しいことを盛り込むことで、相手の行動を操作できます。・効果は歌っている間限定です。チャーム 【魔法】・精霊魔法・植物の精霊の力を借り、対象を魅了します。・術者に惚れ込みます。・効果は一週間続きます。チャ・ザ 【神】・光の5柱神の1柱、幸運神。・他者に不幸をもたらす行為を禁じています。・また、人と人の交流を推奨しています。・商売の神様という側面もあり、信者は商人が多いです。超英雄 【名詞】・ただの英雄では収まらないようなすごいことをした人。・倒せるはずのない魔神王とかを倒しちゃった人たちのために作られたカテゴリ。超英雄ポイント 【ゲームシステム】・上の超英雄が持つすごい能力。・消費することで、色々便利な事が出来ます。・持ってるとすごい、この程度の認識で十分だと思われます。ちょん切り丸 【アイテム/オリジナル】・ミスリル製のはさみ。・マーファの神造兵器。・女の敵に対して絶大な効果を持ちます。・歴代のミスマーファが所有します。・現在の持ち主はニースです。ティキティキ 【モンスター/魔神】・8~9レベル相当の魔神。・SW2にて登場。・ティキラが集まってこれになります。ティキラ 【モンスター/魔神】・6レベル相当の魔神。・SW2にて登場。・このお話の中では、かなりの拡大解釈をしてます。ディスインテグレート 【魔法】・古代語魔法。・対象を分解消去します。・その際、魂も消し去りますので、蘇生は不可能です。・しかし、魔神王には無効。・通常は対象に接触して使う魔法ですが、ウォートは離れた場所の対象にも使用可能です。デラマギドス 【モンスター/魔神】・魔神将。・何だかわかりづらいビジュアルをしています。・幻覚が凶悪です。ドッペルゲンガー 【モンスター/魔神】・別名鏡像魔神。・人の姿、記憶を奪います。・魔法ではなく能力なので、センスマジックとかには引っかからないため厄介です。・こっそり国の上層部とすり替わったり、がんばって暗躍しています。・魔神王はこの上位機種らしいです。トリス 【人名/オリジナル】・を飲んで、ハワイへ行こう。・戦後、洋酒ブームの火付け役になった国産ウイスキーの代表格。・イメージキャラクターはアンクルトリスと言います。ドワーフ 【種族】・亜人、大地の妖精族。・背は低く、筋肉質のずんぐりした体型。・髭を生やしています。・頑健な肉体を持ち、戦士に向いています。・酒に強いです。・ぶきっちょそうな見かけにもかかわらず、手先が器用で、大抵クラフトマン技能を5レベル持ってます。【な行】ナシェル 【人名】・スカード王国王子。・別名チート王子。・能力値はニースの上位機種と言った感じです。・未登場。ニース 【人名】・6英雄の1人、世界最高レベルの神官。・マーファの愛娘、竜を手懐けし者、の二つ名を持つ。・黒髪の美少女。・魔神戦争当時は17才。・個人的に、ロードスはおろかフォーセリア世界全体で一番の美少女だと思っています。人間打楽器 【技】・この場合は、ポージングをしつつ腰を激しく振り、お稲荷さんを太股にぶつけて音を出すという宴会芸。・教養時代に住んでいた男子寮では受けましたが、学科に移ってからの女子寮併設の寮ではどん引きされました。・でも、ぞうさんは受けたんだよ?、差別反対。ネグリタ 【固有名詞/オリジナル】・ラム酒。・意味は「黒人の少女」。【は行】ハーフエルフ 【種族】・エルフと人の間に生まれた半妖精。・忌み子です。・惚れっぽかったりするみたいです。ハイエルフ 【種族】・亜人、エルフの上位機種。・寿命が無いらしいです。・唯一、ロードスの迷いの森にだけ存在するようです。・戦記のヒロイン、ディードリッドはこのハイエルフです。ハイランド 【国】・モスの国の一つ。・別名、ドラゴンアイ。・ナシェルが身を寄せたおかげで、現在モス中の国から宣戦布告されてます。・竜騎士というチート兵種を持ちます。・ここの国王に無能はいないと言われています。・その割に、モス一国も統一できない辺り……ひっひっふ~ 【呼吸法】・痛みや怒りを追い出す呼吸法。ピュリフィケーション 【魔法】・精霊魔法。・真水を作り出します。ファーン 【人名】・6英雄の1人、高潔な聖騎士。・白の騎士の異名を持つ。・ぶっちゃけ、ナシェル登場で一番割を食った人だと思われます。ファリス 【神】・光の5柱神の1柱で、至高神とも言われています。・正義、秩序をその教義とします。・邪悪と認定したモノと積極的に戦うことを推奨しています。・支配階層に信者が多く、有名な信者にファーン、フラウスがいます。フェニックス 【モンスター/精霊】・炎の精霊王。・炎の二面性、こちらは破壊の後の創造を司っています。・公式掲示板を見ると、別のソフトハウスにFEZをいじって欲しいという要望多数。フォース 【魔法】・神聖魔法。・1音節の神聖後で発射できる気弾。フォースイクスプロージョン 【魔法】・神聖魔法。・フォースの無差別範囲攻撃。・ちゃんと考えて撃たないと、味方も巻き込みます。・サシカイアにとって鬼門的な魔法になりつつあります。フラウス 【人名】・6英雄と共に魔神王に挑み、帰らなかった人。・ファリスの聖女。・ベルド好き好き。ブラドノック 【人名/オリジナル】・ローランドモルトの代表と言っていいお酒。・でも、入手は困難。ブラムド 【モンスター/幻獣・ドラゴン】・ロードスに住まう5色の魔竜の一つ。・氷竜、でも、炎系の攻撃は通じないって有り?・古竜かと思ったら老竜でした。・ニースによって古代魔法王国太守による呪いを解かれ、自由になりました。ブルーク 【人名】・ナシェルパパ。・スカード国王。・魔神戦争の元凶。フレイムタン 【アイテム/オリジナル】・多重領域・炎の魔剣。・傾天平面(たかまがはら)と炎状刃(フランベルジュ)を重ね合わせることで作られる。・泥人形の腕を一撃で落とせます。フレーベ 【人名】・6英雄の1人。・ドワーフは石の王国の王。・なのに鉄の王。・ミスリルフルプレートで全身がちがちに固めて突っ込みます。ベヒモス 【モンスター/精霊】・大地の精霊王です。・別名、先生。ペペロンチャ 【人名/オリジナル】・多分、スパゲッティーが食べたかったんだと思う。・偽名なので、オリジナルキャラをネーミングする際のルールに外れています。ベルド 【人名】・6英雄の1人、最強の戦士。・赤髪の傭兵の二つ名持ち。・蛮族出身。・赤紙の傭兵となっていたら、変換ミスです。ヘルハウンド 【モンスター/魔神】・魔神の眷属。・見かけは黒い大型犬。・でも、火を噴きます。ポリモルフ 【魔法】・古代語魔法。・対象を変身させます。・シェイプチェンジと違い、術者以外にも使用可能です。・サシカイアはこの魔法の存在に気が付いていません。【ま行】マーファ 【神】・光の5柱神の1柱、大地母神。・自然であること、を教義としています。・この場合の自然とは、文明否定のエコライフではなく、人としての自然な生き方のことです。・一般信者の多くは農民で、有名な信者にニースがいます。マイセン 【人名】・ハイランド国王。・ベルド以前のロードス最強戦士。・後に金竜に名前をプレゼントします。・すごい名君らしいけど、竜騎士持っててモス一国も統一できないってどうよ、って思ってしまいました。マイリー 【神】・光の5柱神の1柱、戦神。・戦いを司る神様です。・全ての正しき戦闘行為を肯定します。・信者には傭兵や兵士などが多いです。・モスに本神殿があるらしいけど、何処にあるんだろう、情報求む。魔晶石 【アイテム】・マジックポイントの肩代わりをしてくれる石です。・古代魔法王国時代には通貨として使用されていたらしいです。魔神王 【モンスター/魔神】・魔神の軍勢を束ねる王です。・黒髪全裸の美少女の姿をしています。・はっきり言って、勝てっこないです。マッキオーレ 【人名/オリジナル】・イタリアワイン。マリグドライ 【モンスター/魔神】・下位魔神。・ミミズクさんチームを率いて砦を守っていましたが、遠距離壁越しライトニングバインドとアースクエイクによって崩れた塔の下敷きになりました。・幻覚がかなりヤバイです。・デラマギドスの劣化版。モス公国 【国】・小国家が常に争い続けているような国。・魔神王が復活した最も深き迷宮はここにあります。・ドワーフ、石の王国がありましたが、壊滅しました。・エルフの集落、鏡の森も、酷いことになってます。【や行】やらないか 【台詞】・あっ~!喜びの野 【地名?】・マイリー信者が死後、行くとされる場所。・永遠の宴と戦いが繰り広げられているらしい。・ぶっちゃけ、北欧神話の死せる戦士の館。【ら行】ラーダ 【神】・光の5柱神の1柱、知識神。・全ての者が賢明であれば、世界はうまくいくという教えです。・信者には賢者、魔術師が多いです。ライデン 【地名/町】・どの国にも属さない自由都市。・戦国時代の堺の町みたいなモノだと認識しています。・魔神に海上封鎖されて青色吐息でしたが、ベルドが魔神将を倒して息を吹き返しました。ライトニングバインド 【魔法】・古代語魔法。・雷の鎖で対象を縛り上げます。・完璧に決まれば身動き不能(魔法も無理)で、ダメージが入ります。・しかも18ラウンド継続、鬼です。・抵抗に成功しても、全ての行動にペナルティ、更にダメージ、やっぱり鬼です。・シースルーを併用しての壁越しアタックはまじ凶悪。ラガヴーリン 【モンスター/魔神/オリジナル】・スコッチウイスキー。・意味は水車小屋の窪地……今調べて初めて知ったよ。リィーナ 【人名】・ナシェルの血の繋がらない妹。・魔神王はこの娘の姿をしています。・ナシェルお兄ちゃん大好きっ娘、っていうと萌えキャラみたい。リザレクション 【魔法】・神聖魔法。・死者を復活させます。・安易に使わせると、人の生き死にが軽くなります……とほほ。ルシーダ 【人名】・ベルドに同行していたエルフのシャーマン。・魔神将ゲルダムにミュートを成功させるあたり、かなりの高レベルと思われる。・貴重なエルフ娘要員だったのに、登場機会を作れないまま、死亡。ルマース 【人名】・迷いの森、ハイエルフの長。・全身がぴかぴか光ります。レアな焼き鳥 【食べ物】・公式リプレイ、へっぽこーずにて登場。・ティンダー(発火)の指輪を買うつもりで騙されてパチモン(ティソダー)を掴まされたマウナをからかうため、ヒースが注文したおつまみ。・これに古代語魔法ティンダーで火を通し、マウナをからかいました。ロードス島 【地名】・物語の舞台となる島。・呪われた島と言われています。ロードス島伝説 【書籍】・原作。

「やはり、基本は農業改革、ノーフォーク農法導入なんてのが最近の鉄板だと思うんだが」「……で? 輪栽式農法は良いが、何をどう順番に植えればいいのか、お前分かってるのか?」 シュリヒテの提案に、サシカイアはすかさず駄目出しをした。「分かっていないならば、時間をかけて調べる必要がある。それ以前に、そのための土地はどうする? 資金はどうする?」「ええと、ニース様に借りる?」「ただでさえ借金まみれ借りだらけなのにこの上更にか?」 正直、お願いすればニースは答えてくれそうだが、その部下が拙い。ただでさえ、サシカイアらはマーファ神殿内でうろんな目で見られている。ニースの賓客なので表立って何事か言われる場面は無いが、裏では色々と言われているらしい。その状況で更に借りを作るのはよろしくないだろう。「それに、どうしたって時間がかかる。それまではどうする? さらに、そのやり方だと結局、生産力を上げて儲かるのはマーファ神殿だ。俺たちの土地、いや領地、なんてものがあれば良いんだろうがな」 このおファンタジックな世界に知的財産なんて考え方があるはずがない。この農法が成功したとすれば、あっさりと周りはマネをするだろう。そして、その場合に自分たちに何らかの報酬が入ってくるかと言えば、きっぱり期待できない。尊敬くらいは得られるかも知れないが、それではお腹はふくれないのである。「アルコール関係は?」 今度はギネスが口を開く。「確か、北のドワーフ族は粗悪なワインしか手に入れられなくて、それを更に蒸留して火酒云々、なんて記述が原作にあったと思うけど」「そこで、俺らが品質の良い酒を造って販売、一財産を作るってか?」「うん」「……で? 酒の作り方なんて知ってるのか?」「ええと、猫を飼う?」 ウイスキーキャットのことだろうか。そんな答えが戻ってくる辺り、何も知らないと言うことだろう。「はっはっはっ」 ブラドノックがそれを聞いて笑う。「お前達、甘いな、甘すぎて虫歯がうずきそうだ」「きちんと歯を磨け。──それはともかく、そう言うお前には何か良いアイデアが?」「もちろんだ」 サシカイアの問いに、ブラドノックは胸を張る。「ここは一つ、蒸気機関を作り上げるんだ。幸いと言うべきか、石油の存在は原作で明らかにされている。燃料は存在するんだ。蒸気機関ならば、大体の仕組みは分かるし、目指せ産業革命だ。どうせならば、これで蒸気機関車なんかも作って、ロードス全土に路線を引くのもありだろう。目指せトランスポートタイクーン。そうすれば、タイトルに偽りアリ、なんて前書きも削ることが出来るし一石二鳥じゃないか」 はっきり言って、お話にもならない。何しろ、これまでさんざん指摘した「そのための資金」をどう得るか、その辺りがすっぱり欠けているのだから。その上。「精霊使いとして言わせて貰えば、蒸気機関なんて作ったところで、狂った水か風かあるいはその複合精霊が大暴れして、実用化は無理だと思うぞ」 サシカイアの言葉には、かつて自分でも検討してみたという感じの響きがある。「ここはおファンタジックな世界だって事を忘れるなよ。世界の法則が似ているようで、精霊とか魔法とか神様が本当に存在する、似て非なる世界なんだから」「むむ」 ブラドノックはうなり声を上げて黙ってしまう。「──で、偉そうに駄目出ししているお前のアイデアは?」 と、そこでシュリヒテが逆襲に出る。自分の素敵なアイデアに駄目出しされたことが気に入らないらしい。 そう言われるとサシカイアも困ってしまう。視線を宙に彷徨わせながら、思いついたことを適当に口にする。「とりあえず、シューが街々を巡ってリサイタルを開いて俺たちを食わせてくれるって言うのはどうだ?」 バード技能LV5もあれば、ちょいと歌うだけで十分な報酬をゲットできる。もっとも、昨今のロードス状況を考えると、庶民が娯楽に回せる金がどの程度あるか疑問ではあるが。「大却下だ」 しかしサシカイアの意見はシュリヒテにすかさず否定される。「人に頼るな。てか、お前だって具体的なアイデアなんて無いんじゃないか」 実はその通りだから困る。こうした場合、仲間の1人くらいは工学系とか理工系とか農学系なんかの人間で、役に立つすごい知識を出してくれるものなのに。残念なことに現実は厳しく、本当に4人揃ってぼんくらである。悲しいくらいに役に立たない。「大体、まともな仕事出来ないのってサシカイアだけなんだよね」 ぼそりと、ギネスがサシカイアの恐れていたことを口にする。 シュリヒテはバード技能を生かして吟遊詩人の道を。ギネスは一般技能で鍛冶屋の道がある。ブラドノックはセージが高いので、賢者として生きていくことが出来るだろう。なのにサシカイアは真っ当な生業の道がない。技能を生かすとすれば後ろ暗い仕事、シーフくらいしかできないのだ。出来れば真っ当にお天道様の下を歩いていきたいから、それは勘弁である。「大丈夫。サシカイアなら、ちょっと露出度の高い格好をして、夜の駅裏辺りに立っていれば、いくらでも稼げ──」「買った」 ブラドノックに皆まで言わせず、すかさずシュリヒテが立候補。「あ、ずるい、僕だって買うよ」「じゃあ、俺は技術指導と言うことで一番最初に」「あ、ずるいぞ」「てか、シューは宿屋のウエイトレス娘がいるでしょ」「それはそれ、これはこれ」「うわ、開き直りやがった」「シューはずるいよ。だいたい、僕なんてドワーフなんだよ? 同種族は絶対に趣味じゃないし、どうすればいいのさ」「大丈夫、サシカイアなんて付いてないんだから、それよりはまだマシだろう」「……お前らなあ」 遂に怒りを爆発させたサシカイアを囃し立てながら、3人はてんでバラバラに逃げ出した。 ロードス島電鉄18 気分はもう戦争 ゴブリン退治を終えた4人は、感謝の宴を開いてくれるという村人の好意を遠慮して、そのまま寝床に直行した。とても何かを食べて飲むという気にはなれなかったのだ。 開けて翌日、村人が仕事の完遂を確認、報酬を貰うと、逃げるようにイルカ村を後にした。とにかく一刻でも早く、自分たちの繰り広げた惨劇の舞台から離れたかったというのが本当。 マーファ神殿へ戻る道すがら、彼らの話題となったのは、冒険者以外の生きる道の模索。どうやら自分たちは根本的に冒険者に、荒事に向いていないんじゃないかという疑惑。これまで持っていた自信のようなモノも完全喪失。ゴブリン退治であんなに苦労するくらいである、それ以上のモノを相手にして生き残る事が出来るはずがないという結論を出していた。 だから別の仕事について考える。出来れば現代知識を生かして財をなし、素敵な人生を送りたい。 そんな具合で様々な意見が出たが、どれもネットの創作やら二次創作やらからいただいたアイデアばかり。ちらっと聞くだけであれば素敵なアイデアに見えたそれも、根本的な理解が足りていない。現実にものにする為には、資金を筆頭に色々と足りないものばかり。 結局はこれという意見もなく、マーファ本神殿に到着してしまう。「おや?」 そこで、サシカイアは長い耳をぴこぴこと動かした。「どした?」「何か騒がしいな」 エルフイヤーは地獄耳。意味もなく長いわけではない。感度は抜群である。 言われてみれば、と3人も周りを見回す。 何というか、難民キャンプのみんなも、どこか落ち着かない雰囲気である。元々不自由な生活で落ち着かないのは最初からだが、更に、落ち着きがない。不安げな顔をして、ぼそぼそと小声で会話を交わしている。おまけに、幾人かの神殿関係者があわただしく走り回っているの見える。「何かあったのかな?」「どちらにせよ、いい予感はしないよな」 と、先の展開に不安を覚えつつ、しかし回れ右をしても向かうところもなく。4人は仕方なく「おいでませマーファ本神殿へ」、「ブライダルフェア開催中」なんて垂れ幕の下がった入り口の門をくぐる。「お帰りになられたのですか、ちょうど良かった」 途端、顔見知りの神官戦士──砦に一緒した──に見つかって声をかけられる。 見れば、彼は完全武装。どころか、部下らしき者まで10人近くつれている。もちろん、その部下達も完全武装である。 物も言わずにサシカイアは回れ右。 しかし、回り込まれてしまった。「あなた方に仕事を依頼します」 何事もなかったかのように神官戦士は口にする。「ええと、一仕事終えて帰ってきたばかりなので、少し休憩したいなあ、なんて思うんですけど」「却下です」 にべもないとはこの事である。サシカイアの希望は一言で切り捨てられる。「こんな事は言いたくありませんが、あなた達は我々に借りがあるはずです」 借金のことである。ぶっちゃけ、まだ全然減ってない。本当であれば、ブラドノックの宝物鑑定でいくらかの報酬を得ているはずなのだが、残念なことに彼らはそれに気が付いていなかった。特にブラドノックは太守の特殊な秘宝の研究に耽溺してしまい、報酬について等頭に掠めてもいない。掠めていたとしても、現金貰って借金返済よりも、物納を望んだだろう。出来れば魔法のメイド服を手に入れて、サシカイアに着せてやりたい、そんな具合に。 借金の話を持ち出されると弱い。黙り込んでしまった4人に、神官戦士が告げる。「ウドの村が魔神に襲われて壊滅しました」「まじかよ」 ウドの村とやらが何処かとかはともかく、起きたのはろくでもない事件であろうことは予測が付いていた。まあそんなことだろうとは思いつつ、驚きは隠せない。──しかし、コーヒーの苦そうな名前の村である。「あいつら一体ドンだけいるんだ? いくら何でもいすぎじゃないのか? アレか? 一匹見かけたら30匹はいるのか?」 アダモ村、そして廃棄砦。サシカイアたちからして、かなりの数を倒したはずである。他にも、マーファ神殿の高位の神官や神官戦士なんかも、魔神退治に精を出しているらしい。なのに、まだどこかの村を襲って壊滅させるだけの戦力が残っている。しかも、奴らの本拠から遠く離れたこのアラニアの地に。ぶっちゃけ、人が魔神に勝つことをサシカイアらは知っている。しかし、それでも本当に勝てるのかよ、と絶望してしまいそうな数がいそうだ。「……我々が甘く考えていたと言うことはあります」 神官戦士は反省を口にする。 こちらも、アラニアにおける魔神の蠢動は最早小規模な物にとどまるだろうという予測を立てていたらしい。ところがそれは予測ではなく、希望的観測。願望であった。魔神はより大胆に、大規模に攻勢をかけてきている。「幸いと言うべきか否か、ここアラニアにいる奴らの数が残り少ないと言うのは確かなようです」「それで壊滅?」「ええ。奴らは減った分の戦力を、ゾンビを作ることで補った模様です。生き残り、こちらへ報告を持ってきてくれた者の話では、魔神の数は片手で数えられる程。代わりに数十の、百近い数のゾンビの軍勢に村は襲われ、壊滅したそうです」 忘れがちだが、魔神は皆魔法使いでもある。暗黒魔法か古代語魔法、あるいはその両方を使う。魔神王に至っては、その両方を15レベルという文字通り人外レベルで行使する。そして、そのどちらにも、ゾンビを作る魔法が存在する。──ちなみに古代語魔法の方は一般に失われて久しい。いわゆる遺失魔法である。「百近い?……それって、もう戦争じゃないか? アラニア国軍は?」 サシカイアが何となく返事が予想できているんだけど、それでも一縷の望みを込めて尋ねる。「アラニア国軍が各地の兵力を王都に集中、防御を固め、治安維持にいそしんでいるようです」 それは、王族や多くの貴族がいる──為政者が自分たちのいる首都以外の土地を見捨てた、と言う意味だ。「どんだけ腐っているんだ? アラニア王国」 予想通りだがちっとも嬉しくない。ブラドノックがうんざりと呟く。これにはサシカイアも大いに同意する。滅びてしまえ、アラニア王国。「しかし、それだけの敵相手にこれっぽっちの数で向かうのか?」 シュリヒテがぐるりと神官戦士達を見回して言う。総勢10人、あまりに少ない。 ゾンビはぶっちゃけ弱い。しかし、数が数である。いくら武器と神聖魔法を使いこなす神官戦士でも、たかだか10人で軍勢と言っても良い数を相手取るのは厳しいように思える。これがウィザードリィの世界であったなら、プリーストはアンデッド退治の専門家だ。精神力とか一切の消費必要なしで繰り返し使用も可能な対アンデッド一撃必殺技能ディスペルがあるが、残念な事にSWの世界ではそうではない。ターンアンデッド、デストロイアンデッドとか、まさしく名前からしてアンデッド向きの魔法はあるにはあるが、効果や 効率が今ひとつだったりする。確実に退治できる魔法じゃないのだ。いや、ニースがデストロイアンデッドを使えばその魔力の強さで一撃必殺かも知れないが、普通の神官にそれを期待するのは酷だろう。 しかも、その背後にはそれだけのゾンビを従える、それだけの魔法を使える魔神が控えているのである。ここにいる神官戦士ズではいかにも頼りない。「ですから、あなた方がこのタイミングで帰還したのは幸いでした」 マーファのお導きに感謝を、と神官戦士は祈りを捧げる。 ものすごい大きなお世話だよマーファ、とサシカイアは思ったが、賢明にも口には出さず、神官戦士達を見回す。「ニースがいないようだけど?」 そう、せめてもニースがいればいいのだが、その姿がない。「……ニース「様」は、いま、鉄の王国を訪問しています」 とある部分を強調しつつ、神官戦士。「大体、あなたがそれを示唆したんでしょう?」「おぉ?」 サシカイアは首をかしげる。「忘れたんですか? 下手をすると、鉄の王国のドワーフたちが暴走するかも知れないって、ニース様に言ったのはあなたですよ」 そう言えばそんなことを言ったような気もする。ここは原作知識を生かしてニースの好感度アップ作戦、なんて阿呆な事を考えて。 原作の流れで行くと、鉄の王国のドワーフたちはモスのスカード王国に攻め込むべく、軍勢を派遣する。 彼らドワーフ族にとって、南の同族国家、石の王国が魔神に滅ぼされたことは、もちろん許せないことである。すぐにでもモスへ赴き、魔神を討ち滅ぼしてやりたいとあたりまえに思っている。だが、それでも暴発することなく堪えていた。モス公国が一枚岩になって魔神に向かおうとしていると言うこともあった。自分たちが行けば余計な波風を立てることくらいの理解はある。 しかし、モス公国軍はスカード国王ブルークが魔神を率いて登場したことであっさりと瓦解、解散の運びとなった。ここで、ドワーフ族にとって重要なのは、スカード国王が魔神を率いていたと言うこと。 ドワーフは一般的に律儀で、同時に頑固である。約束事はしっかりと守るし、当然相手にも絶対遵守を求める。もし、相手が約束を破るようなことがあれば、彼らは絶対に許さないだろう。 スカード国王はそれをした。 スカード王国と南のドワーフ族、石の王国は、エールの誓いと言う名の友好条約を結んでいた。両国は仲良く手を携えてこれまでやってきた。スカードは特産のエールをドワーフ族に納め、代わりにドワーフの手による優れた工芸品などを手に入れ独占交易。これによって豊富な財をなした。その財を使って経験豊富な傭兵などを雇うことで、小国に似合わぬ軍事力を持ち、モス国内では大国に当たる隣国ヴェノムに併合されることなく独立を保ってきた。また、いざとなればドワーフ族がスカードのために戦うことも辞さなかった事も、その独立維持を助けていた。 スカード王が魔神を率いているのであれば、その約定を破り、ドワーフ族を攻め滅ぼしたと言うこと。 それを知った北のドワーフ族は激昂し、モスへの軍の派遣を行う。最早堪えることは出来ない。スカード王国を、そこに巣くう魔神どもを滅ぼしてくれる、と。 しかしまとまった数の武装集団がアラニア国内を移動すれば、当然アラニア王国ともめる。他国の──ドワーフ族とはいえ、他国には違いない──の軍勢が国内で好き勝手にする。それがアラニア北部に限られているうちは今回の魔神騒ぎ同様見ないふりをするかも知れないが、残念なことにモスへ向かうには南下する必要がある。王都方面へ向かうことになる。そうなればさすがのアラニア王国も見て見ぬふりは出来ず、対抗して軍を上げるだろう。話し合いで済めばいいのだが、それは期待薄。両者の激突は必至。 その無駄な流血を避けるために、ニースは北のドワーフ族、その石の王を説得し、それを切っ掛けにモスへ向かうことを決意する。 それが原作の流れ。 そのうち、北のドワーフ族の動きを、サシカイアはまるで自分が考えついたみたいにしてニースに伝えていた。どうも馬鹿と思われているような気がしたので、ここで一発頭の良さそうな振りをしてやろうという、他愛のない点数稼ぎ。「……そう言えば、そんなこともあったかも」 この場合これは大失敗だったかも知れない。 明らかに失敗だと思ってるらしい、シュリヒテらのジト目が突き刺さって痛い。てか、ブラドノックは胸に視線を向けてきているみたいだが。その上残念そうな、気の毒そうなため息まで吐きやがった。何だか非常にむかついた。いつか殺す。 話を戻す。その話を受けて、どうやらサシカイアらのゴブリン狩りへの出発に前後して、ニースも鉄の王国へ向かったらしい。その結果、ドワーフ族は原作以前、軍を派遣しようとする所でニースの説得を受けることになったのか、今のところ南へ向かうドワーフの軍勢の話は聞こえてこない。 これでアラニア王国とドワーフ族の戦いという最悪のシナリオは回避された。サシカイアの手柄でも何でもなく、原作でも回避されているのだが。もっともこれで未然に防いだのだから、アラニアのドワーフに対するヘイトが高まらない分良かったと考えることも出来る。 しかし、こうなるとちっともよろしくない。 正しく原作通りの展開であれば、魔神のゾンビ軍団に対してドワーフの軍勢をぶつけるという手が取れたかも知れない。と言うか、位置的に放っておいても勝手にぶつかっていたかも知れないくらい。そうでなくともマーファ神殿とドワーフ族で共同作戦をとれれば少数で多勢に当たる必要もないし、それに何より、その場合にはそこにロードス1優秀なプリーストであるニースもいた。「これがバタフライ効果か?」 僅かながら、原作の流れから逸脱してきている。原作にゾンビ軍団の襲撃なんて無かったし、これは自業自得だがニースがドワーフの暴発を未然に押さえているし。あるいは近い将来、原作の流れを知っているというアドバンテージが失われるかも知れない。──まあ、どうせ魔神退治に深く関わるつもりはないのだが。「とにかく、そんなわけで我々は急いで出撃しなければなりません。あなた方も同行してください」「疲れているんだけど?」「トランファーしますか? 怪我も病気も治せますよ」 他にサシカイアが口にしそうなさぼりの理由を先読みして言われる。神官なんて嫌いだ。「ゆっくりしている暇はないのです。報告では、魔神のゾンビ軍団は、どんどん北上しています。そして、奴らは誰かを殺すたびにその人数を増やして膨れ上がっているようなのです。早いうちに何とかしないと、本当に手が付けられなくなるかも知れません」 と言われても、サシカイアらは顔を見合わせるばかり。 理屈は分かるが、ぶっちゃけ怖い。ゴブリン相手にろくでもない戦闘を経たばかり。魔神と戦えるかと問われれば、最初の戦闘時以上に不安を感じてしまう。また、ゾンビも勘弁だ。元は人。人は死ねば死人になるのではなく、物、死体になる。とは言われているが、理屈だけで片付く問題ではないだろう。やりにくさではゴブリン以上となることなんて簡単に想像が付く。躊躇して、こんどこそ死にかねない。そしてその場合に今度はニースはおらず、下手をするとこっちまでゾンビにされてしまうかも知れない。ちょっと考えるだけでこれだけの問題点。ますます気が乗らない。「こんな事は言いたくありませんが」 ところが時間を惜しんだ神官戦士が、ついに伝家の宝刀を抜く。「あなた方は我々に借金があります。ここで今すぐ全額返してもらえないのであれば、我々の言葉に従ってもらいます。これは、命令です」 どうやら、サシカイアらに選択の自由はないらしい。

今回別作品とのクロスオーバーです。 ご注意下さい。 彼は正直なところ、敵をなめていた。 自分たちに比べれば脆弱な生き物。軽く撫でてやるだけであっさりと死に至る。その程度の相手。敵と表記する事すら大げさに過ぎると。 ここのところ、連中のコミュニティーを襲いに行った一軍が全滅したり、ねぐらにしていた砦を落とされたりと、ろくな事が起きていない。いないが、それも敵の強さを示す出来事ではなく、全ては襲撃隊イヌさんチームや守備隊ミミズクさんチーム連中の怠慢や無能が招いた結果だと思っていた。愚かな仲間を持つと苦労する。尻ぬぐいも楽ではない。しかし、こうやって無能が淘汰された以上、これから先は多少は仕事も楽になるだろう。そんな風に彼は考えていた。 そして彼は、本隊ライオンさんチームの特攻隊長として、直属の上司と共に、ゾンビの群を率いていくつものコミュニティーを滅ぼしていった。 ほら見ろ、やっぱりこいつらは弱っちい。自分たちが本気を出せば簡単に滅ぼす事が出来る、との確信をあらたにしながら。 しかし。 彼らの前に立ちふさがった長耳娘が、彼の傲慢をあっさりと焼き尽くした。 ロードス島電鉄RF 新牧場物語 それは、圧倒的な火力だった。 炎の精霊王イフリートが睨み、フェニックスが羽ばたく。その絶対的な火力によって、率いていたゾンビの群はほとんど一瞬で焼き尽くされ。幸い彼自身は直撃を避けたモノの、その余波だけで全身に重度のやけどを負う事となった。 そして長耳娘の一撃は、彼にやけど以上に深刻な傷を与えた。彼の精神に恐怖という名の傷を刻み、その心を叩き折ったのだ。 敵は脆弱な生き物。 彼の抱いていた確信は、ただの幻想、己に都合の良すぎる勘違い。敵は脆弱どころか圧倒的、恐怖を覚える程に強かった。 劫火を背後に、薄い胸の前で腕組み、仁王立ちする長耳娘。アレは化け物。アレは既に滅びたはずの王国魔術師並の生き物。アレは彼のチームの隊長ばりに突き抜けた存在だった。彼の事など、蚊を叩きつぶす程度の労力で、あっさりと屠ってしまう事が可能。そう言うレベルのモンスター。 心を折られた彼は、最早戦士たりえず。最早、戦場にとどまる事も出来ず。 ライオンさんチームの特攻隊長としてのプライド。順調に進んできた出世街道、将来への展望。 そんな、全てのモノを投げ捨てて、彼は後ろも見ずに逃げ出した。 追いかけてくる長耳娘の幻影に怯え、兎に角遠くへ遠くへと恐怖心の命じるままに必死で逃げまどい。 気が付けば1人、何処とも知れぬ場所に迷い込んでいた。 そもそも、このあたりは彼の、彼らの世界ではない。文字通りの異世界。地理に不案内であっても、何ら不思議な話ではない。 しかし、今の状況でこれは最悪だった。 強靱な肉体を誇る彼であるが、それにしたって呑気をしていられない程の全身のやけど。何時またあの長耳娘が現れないとも限らないというのに、チームとはぐれてただ1人。自分を、心細さ、なんて軟弱な感情とは無縁の生き物だとこれまで思って生きてきたが、それは大きな勘違いだった。今は何より仲間が恋しい。1人孤独に、寄る辺なく立つ事が、とんでもなく心細い。 彼は仲間を求めて闇雲に歩き回り、体力を消耗させていった。 彼の傷は深い。その上、食事や睡眠を省略した無茶な行動は、確実に彼をむしばんでいく。積み重なる疲労。そうして遂に彼は力尽きてしまう。 普段の調子であれば、なんて事のないぬかるみ。そこに足を取られ、次の瞬間には地面に倒れていた。そして、そうなってしまうと、彼には立ち上がる体力、気力が残されていなかった。 このまま、自分は死んでしまうのか。 こんな、何処とも知れぬ異界の森の中で、仲間ともはぐれ、1人寂しく。 冗談ではない。チームの特攻隊長として、赫々たる戦果を上げ、順調に出世街道を歩んできた自分が。 誰からも省みられることなく虚しく死を迎える。 そんな話が認められるわけがない。 と、喚いたところで体力を消耗させ、死を近づけるだけ。 泣き叫び、喚く事を堪えるのに、彼は超人的な努力を払う事となった。 そして。「大丈夫ですか?」 いつの間にか意識を失っていたらしい。誰かの声が耳朶を打ち、それによって彼は覚醒する。 気が付けば、金髪の少女が彼を見下ろしていた。「酷い怪我をしているようですが、何か私にして欲しい事はありますか?」 おっとりした声で、少女が彼に話しかけてくる。 苦労して彼らの言葉ではなく、下位古代語を思い出しつつ、水と食べ物が欲しいと告げる。「わかりました」 彼に一つ頷くと少女はきびすを返し、近くにあった家の中に入っていく。 よほど疲労し、余裕を失っていたのだと、彼は改めて思い知る。こんなに近くに民家があったとは、これまで全く気が付かなかった。それほどまでに視野が狭まり、疲労していたのだ。 程なくして、少女は戻ってきた。「はい」 そう言って、彼に渡してくれたのは。 じょうろだった。 それも、酷くぼろぼろで穴の空いた。 まじまじと少女の顔を見直す。 少女は、にこにことおっとり微笑んでいた。 もしかして、自分の下位古代語が間違っているのだろうか?、と彼が首をかしげていると、少女は「あっ」と小さく声を上げて一つ手を打つ。「そう言えば、食べ物もでしたね」 言うと再び家の中に入り、すぐに戻ってくる。 そうして、彼に手渡したモノは。 くわだった。 それも、酷くぼろぼろでさび付いた。 まじまじと少女の顔を見直す。 少女はにこにことおっとり微笑んでいた。 もしかして、自分の下位古代語が間違っているのだろうか?、と彼が再び首をかしげていると、少女は「あっ」と小さく声を上げて手を打つ。「これもお渡ししないと」 そう言って彼に手渡したモノは。 かぶの種だった。 まじまじと少女の顔を見直す。 少女はにこにことおっとり微笑んでいた。 もしかして、自分の下位古代語が間違っているのだろうか?、と彼が三度首をかしげていると、少女は微笑みながら、彼に告げた。「働かざる者、食うべからずです」 既にその力も残されていないのですが、と彼は目で訴えるが、少女はまるで気が付かない。「と言うわけで、あなたにはこの牧場を貸して上げます。がんばって耕してください」 何その超展開、と狼狽える彼に構わず、少女が指し示すのは近くに広がる牧場。と言うか、農場? 厩舎らしきモノがあるにはあるが、老朽化は致命的なまでに進んでそのままでの使用に耐えそうにない。隣接する無駄に広い耕作地らしき場所も、既に放棄して久しいのか、カラフルきわまりない雑草が生い茂り、でかい石ころが転がり、何故か切り株がたくさんの、ただの荒れ地にしか見えない。「牧場の名前はどうしますか、ラグナさん」 ラグナ? 誰の事?、と首をかしげるが、どうやら彼の事らしい。彼の種族がラグナカングであれば納得のネーミングだが、残念ながらそうではない。しかし、少女は名前がないのは不便ですから、等とぬかし、あなたはラグナさんです、とこっちの事情など一切合切を無視して決めてしまう。 そうして再び、少女は牧場の名前をどうするか尋ねてきた。「今までは、私の名前を付けてミスト牧場って呼んでましたが、ラグナさんが好きに付けちゃって良いですよ」 それじゃあ別の名前を、と促されるままに考え、すぐに思考停止。何故だろう。好きに付けて良いとか言ってくれているが、別の名前にすると、この少女の機嫌を酷く損ねてしまうような気がするのだ。 いや、そもそも、何故自分はこの少女のペースに乗せられているのか。 気にせず、この少女を頭から丸かじりにして飢えを満たすという選択肢もあり、そちらの方がよほど利口なように思える。──のだが、彼の背中は、何故か冷たい汗にまみれていた。 彼に深甚なる恐怖を味合わせた長耳娘。アレに匹敵する、否、それ以上の恐怖を、彼は目の前の少女に感じていた。彼は、彼の最上級の上司に相対している気分になっていた。逆らう事など、思いつきもしない。「それじゃあラグナさん、がんばってくださいね」 との少女の言葉を受けて。 彼は、以後、ミスト牧場小作人ラグナとして、農作業に従事する事になる。 世にも珍しい、農作業にいそしんで村人と共存していた魔神は、モスはハイランドからやってきた双子の王子によって討ち取られる事となった。 討ち取られたその魔神は、何故か、解放されたようなすっきりとした顔をして、事切れていた。 彼が何を思って農作業に従事していたのか。 彼が何故、解放されたような顔をして死を迎えたのか。 それを知るものは一様に口をつぐみ、真実は謎のままとなった。 彼が面倒を見ていた畑では、静かにかぶが、収穫の時を待っていた。 呪われた島ロードス。 そこには、一つの噂があった。 モスで解放された魔神王。 それとは別に、アラニアの北、白竜山脈にも、封じられたもう一体の魔神王が存在するという、真偽の定かではない噂が……例によって短時間、その場の思いつきだけで書いたお話です。農作業デーモンは無視すると言った舌も渇かないうちにこれ。いずれ狼が来たと叫んでも誰も信じてくれなくなりそうです。兎に角、色々問題点はあると思いますが、温い目で見て頂けると幸いです。ちなみに、ミストさんは最初の嫁、大好きです。

ギネスからプリースト技能が失われる可能性。 それについては考えていた。心配していた。 そうなった場合について、覚悟もしていた──つもりだった。 そう、「つもり」だったのだ。 それでも何とかなるだろう。まだしばらくは大丈夫だろう。そうした、根拠のない楽観。自分が、世の中を甘く見ていた、それを思い知らされる。 世の中はそんなに都合良くできていない。楽観をあざ笑うような現実のしっぺ返しは珍しい事じゃない。たとえば学校の試験なんかで、何度も味わったこと。何とかなるだろうと考え、何ともならなかったことなどいくらでもある。別段、これはサシカイアにとってと言うだけではなく、満遍なく、万民に共通しての話。責任を求めるのであれば、それは自分たちの楽観にこそ求めるべきだろう。 だが、それでも。 それを承知でも。 何故今ここでこうなるのだ?、何故自分に、自分たちに不幸が降りかかってくるのだ?、と神を恨まずにはいられない。 なにしろこのロードスには、本当に神様がいるのだから。「糞ったれ」 だから、その神様に罵りの声を捧げる。エルフだから──なんて理由じゃなく、サシカイア個人として、もうこれから絶対に神を信じることはしないと、心に誓う。誰が信じてやるモノか。 だが、残念なことに、思いつく限りの罵倒を神に向けても、事態の改善には全く役に立たない。 ゾンビの群は村を守るべく作られた柵の向こうにまで迫っており、既に自警団との間で命のやりとりが始められている。 そして、残念なことに自警団が抜かれるのも時間の問題。何しろ自警団の練度なんて知れたモノである。その上に、数が違いすぎるのだ。抜かれるならまだ幸い。むしろ、押しつぶされてしまう心配をしなければならない。 だから、今は頭を切り換える必要がある。 どうやって生き残るのか。そんな手段を使えば生き残れるのか。 そうしたことに限られたタスクを振り分ける必要がある。神に文句を言い連ねるなんて、時間の無駄。愚の骨頂。 それを承知の上で。「くたばれ、マイリーっ!」 サシカイアは、心からの罵りを高々に叫んだ。 ロードス島電鉄021 残酷な神が支配する とにかく、生き残るために何をすべきか考えろ。 光の5大神の一柱に罵りの声を上げたサシカイアに、ぎょっとした視線を向ける周りをよそに、必死で頭を働かせる。 すでに、戦端は開かれている。防御用の柵を挟んで、自警団が必死でゾンビを倒そうと奮闘している。 しかし、悲しいかな自警団の練度が低い。悲しいかな装備は劣悪。悲しいかな数が違う。 ほとんどラッシュアワー時の通勤電車並みの密度で押し寄せるゾンビの群。自警団はそこへ向かって即席の槍を突き出し、古びた剣を振り下ろししているが、今ひとつ、効果は薄い。何しろ相手は既に死んでいる。今更刺し傷の一つや二つ増えたところで、一向に痛痒に感じない。文字通り痛感だって無かろうし。声すら上げずに柵に向かい、その圧力で押し倒してしまいそうな勢い。 時間の余裕はほとんど無い。 柵が倒れれば、殺到する数の圧力に、味方はあっさりと押しつぶされてしまうだろう。味方が強いとか弱いとか問題じゃない。あれだけ密集して押し寄せる数の圧力に抗しきれるはずがないのだ。戦いは数だという偉い中将閣下の言葉が酷く実感できる。「ど、どうする?」 ブラドノックの声。こちらも予想外の──「予想をしていたつもり」だけだった、この急な事態に声が上擦っている。「どうするも何も、倒すしかないだろう」 そう、倒すしかない。どんな手を使ってでも。 サシカイアはぐるりと視線を巡らせる。 シュリヒテは剣を抜き、しかし腰が引けた格好で控えている。能力だけならばシュリヒテは強い。だが、中身が何処まで信用できるか。それに、いくら強くとも単騎では多寡が知れている。 ギネスはダメ。その場にしゃがみ込み、頭を抱えて嗚咽を漏らしている。ここは使い物にならないと見た方がいいだろう。 他に神官戦士、そして冒険者たち。何故かサシカイアの方を見ている。指示待ちか? 何で自分が──と思うが、要するに「戦乙女」なんてろくでもない二つ名をゲットしてしまったせいだろう。 なんて罰ゲームだ。 口の中でののしりつつ、更に視線を巡らせ。 煌々と焚かれたかがり火に視線を止める。 ああ、そうだ。今はどんな手を使ってでも、ここを切り抜ける。後のことは後で考える。本当のところを言えば、後ろに控えている魔神との戦いがある場合を考えて、精神力は温存しておきたかったが、そんな贅沢を言える状況じゃない。半分は、ゾンビを相手にしたくない言い訳だったし。乾電池──トラスファーで精神力を補充してくれる神官の数は足りている。 ならば。「火を焚いてくれ。盛大に、派手に」 やってやる。やってやろうじゃないか。 すとんと、腹が決まった。 ゾンビ? 人の死体? それがどうした。 己を鼓舞するように、乱暴に吐き捨てる。 今は何より、己が生き残ること、それが大事。きっと後悔する。後で夢に魘される。だけど、どちらも所詮は後のこと。まずは目の前、この場を切り抜ける。 そう決意したサシカイアの眼は、酷く座っていた。 村人たち──自警団の男たちは奮闘していた。 凶悪な濁流の如く村を飲み尽くそうと押し寄せてくるゾンビを、即席の柵を間において、何とか押しとどめていた。 もちろん、彼らだってゾンビが平気なわけではない。あたりまえに気持ち悪く感じているし、怯えている。おまけにその数は圧倒的。動きが鈍く大して強くないとは言え、何の訓練も積んでいない村人よりは強い。それでも彼らは、挫けずに武器を振るう。自分の村が襲われる。自分の背後に大切な人がいる。そう言う理由は、わかりやすく彼らを覚悟させる。わかりやすく力を与える。 涙目になりながら、自警団は柵の隙間から槍を、剣を突き出す。幸いと言うべきか、敵は密集していて、目を瞑っていたって必ず当たる。逆に不幸なことは、その効果が見えにくいこと。前述の通り、一度や二度武器を突き立てたところで、ゾンビは気にしているようには見えない。逆に柵の隙間から手を突き出して彼らを捕まえようとしてくる。捕まったらどうなるか、それは不幸な隣人が教えてくれた。勢いよく槍を突き出したはいいが勢いがつきすぎ、柵に近付きすぎてしまった隣人は、ゾンビに捕まり引き寄せられ、揉みくちゃにされて囓られて──と、酷い目に遭って死体となった。絶対に我が身では体験したくない。 柵の向こうのゾンビはまるで減らず、逆に密度を増している。一途に命令を遵守し続けるゾンビたちは、前が詰まっても構わずに前進してくる。その結果、押し合いへし合い、中には同じ仲間のはずのゾンビに押し倒され、踏みつぶされてぐちゃぐちゃになってしまうようなモノまで出している。しかし、それでも彼らは全く気にしない。ただただ前へ前へと進もうとする。 その結果、即席の柵が悲鳴を上げ始めた。繰り返し繰り返し、絶えること無く加えられ続ける圧迫に、即席の柵ではそう長く保ちそうもない。 そして柵が倒れてしまえばそれで終わり。 柵を押し倒す程のゾンビの圧力に、何の遮蔽物もなく晒されることになれば、耐えきれるはずがない。あっさりと押し込まれ、踏みつぶされて蹂躙される。必死で戦っている彼らはもちろん、その背後の村まで。 自警団は涙目で、必死で武器を振るう。それは破滅を先送りできているかすら定かではない、絶望的な行動。しかし、彼らにはそれしかできない。できることがない。 益々柵は絶望的な軋みを上げ始め、限界はすぐそこに来ている。 それを悟り、自警団は浮き足立つ。ここでこれ以上ゾンビを止めるのは不可能。ならば、柵が壊れてゾンビに飲み込まれる前に逃げた方がよいのではないか。幸いゾンビの足は速くない。必死で逃げて、逃げまくれば助かるのではないか。 そんな弱気に飲み込まれそうになったとき。 彼らの背後から風が吹いた。「うわっ」「あちぃ」 思わず悲鳴が零れる程の熱風。 振り返れば、彼らの背後で赤々と燃えさかる炎。「──なっ?」 いつの間にこんな炎が。 村と自分たちを分断するようにも見える盛大な炎に、彼らは狼狽える。 通りのど真ん中、ちょっとやそっとでは越えられそうにない壁とも見える盛大な炎。 その存在理由は? もしかして、自分たちは見捨てられたのか?自分たちを見捨て、村を、村だけを守るためにこの炎の壁を立てた? そんな思いが頭を掠め、彼らは狼狽える。 ──が。「アレは?」 誰かが、声を上げて指をさす。 天を焦がさんばかりに燃え上がる炎の壁の前。 そこに堂々と立つ1人のエルフ娘を彼らは見つけた。 名は知らない。しかし、そのエルフ娘が「戦乙女」と呼ばれていることは彼らも知っていた。その可憐で瀟洒で華奢な見栄えに似合わず、アダモ村を襲った魔神を撃退した勇者の1人。その勇名は、彼らにも聞こえている。その様を実際に見たという、避難民と同道していた冒険者たちの中には彼女の親派、ほとんど信仰していると言っていい程の者もいる。 ところが見た目、そのエルフ娘は全然強そうに見えない。おまけに容姿が整いすぎている。実力は二の次、ただのアイドル的な人気ではないのか? この村の者達の中には実物を見たことでその活躍について半信半疑になった者もいた。 が、それも今、この時まで。彼らはその名の意味を実感することになる。 そのエルフ娘が炎の壁の前に、足を開き、薄い胸を張り、その前で腕を組んで堂々と立っている。「エフリート」 まっすぐに正面を見据えたままの、その呼びかけは決して大きな声ではなかったが、彼らの耳にはっきりと聞こえた。 そして見よ。 エルフ娘の言葉に応え、その背後の炎が大きく脈動する。盛大に火の粉をあげて、歓喜の声を上げるが如くに膨れ上がる。黄金色の輝きを上げ、踊るように大きくうごめく。 そしてそれが現れた。 でんでんでんでんでんでんでんでん……なんてBGMが聞こえそうな勢いで、炎の中から巨人が登場する。エルフ娘同様の格好、胸を張って腕を組んだ炎の巨人が、ゆっくりと炎の中からせり上がってる。 圧倒的なまでの存在感を持つ、炎を全身に纏ったその巨人。 それは破壊を司る炎の精霊王、エフリート。 唖然とすることしかできない村人たち。「なぎ払え!」 呆然と彼らが見つめる先、背後の巨人を振り向くことすらなく、エルフ娘が腕を組んで前を見据えたままで指示をだす。 それに従い、腕組みのままでエフリートがゾンビの群に視線を巡らせる。 直後、唐突に、ゾンビの群の中で炎が膨れ上がった。「うわっ」 と、押し寄せる熱風に思わず顔をかばう自警団の前で、炎が踊る。ゾンビを飲み込み、巻き上げて、真っ赤な炎の竜巻が蹂躙する。彼らは知らないが、それは専門用語でいえば精霊魔法ファイアーストーム。その、あまりに圧倒的な光景に、彼らは呆然と口を開けて見守ることしかできない。何故、冒険者たちが彼女を「戦乙女」と呼ぶのか。何故、崇拝に近い感情を抱くモノまでいるのか。彼らはそれを、この上なく理解した。理解させられた。 強大なる炎の巨人を従え立つエルフ娘。エルフ娘の容姿が天国的な程に整っていることもあり、それは一幅の名画のようで。まるで美しい幻想のようで。──まるで、神話の一場面のよう。 思わずその場に跪き、崇拝の念を示してしまいそう。そんな事を考えた村人もいた。 ──なのに、更に続きがあった。「ゴッド、バード!」 エルフ娘が叫ぶと、エフリートの巨体が宙に舞う。空中でその巨体を一際大きな炎が覆い尽くし、天に巨大な炎の球体が出現する。火球は金色の輝きを放ち、それはまるで太陽のごとし。次の瞬間、その火球がさらに輝きを増し、ほどけて巨大な炎の鳥を顕現させる。金属を打ち鳴らしたような甲高い叫びを上げ、その炎の鳥は大きく羽ばたく。破壊と再生、二つの事象を司る炎の精霊王。その二面性の内、破壊を司るのが炎の巨人エフリートであれば、こちらは再生、そして浄化を司るモノ。聖なる炎の鳥、フェニックス。「行けっ、科学忍法火の鳥!」 エルフ娘が腕組みを解き、まっすぐにゾンビに向けて神の造形、細く、しなやかな腕を突き出す。 その指示に応えるが如く、もう一声鳴き声を上げると、フェニックスが炎の矢となる。地表すれすれ、一直線にゾンビの群を貫いていく。その進路をふさぐモノを一瞬で焼き尽くし、ゾンビの群を蹂躙する。盛大な炎の柱がいくつも立ち上がり、ゾンビを巻き上げて燃え上がる。 敵陣を突き抜けた炎の鳥は、それで役目を果たしたとばかりにもう一声上げると、中空で炎と転じ、すぐに消えていく。 残されたモノは呆然と口を開けている村人、自警団と、あれだけいた数を大きく減じたゾンビの群。「勇者たちよ!」 そこへ、エルフ娘の声が響き渡る。 美しきかんばせは凛々しく引き締められ、振り上げたショートソード、そして戦場によく通る澄んだ声。これはまさしく戦乙女。そう彼らに納得させる。その二つ名に嘘はない。「邪悪なる技によって眠りを妨げられた同胞に安らぎを! 悪逆なる魔神どもに正義の鉄槌を! 全員抜刀! 今こそ、我らが力を思い知らせてやれ!」 戦乙女が剣を振り下ろし、まっすぐに未だうごめくゾンビに向けて号令を下す。「うおぉぉぉぉぉぉ!」 それに応える雄叫び。 戦乙女の後ろから、それぞれの獲物を構えた冒険者たちがゾンビの群に向かって突撃を敢行する。いつしか、自警団の者達も同様に雄叫びを上げ、彼らと並んでゾンビに向かう。 最早何の心配もない。 彼女はまさしく戦乙女。彼女がいる限り、彼女が導いてくれる限り、我らに決して敗北はない。 そんな確信を抱いて、彼らはゾンビの群を駆逐にかかった。 膝を落としかけて、サシカイアは堪える。 見た目派手だが現実はファイアーストームの連打は、サシカイアをかなり消耗させた。 疲れた。もう動きたくない。働いたら負けかと思う。自分の仕事は果たしたと、ひっくり返って休憩したい。 だが、今はまだそれをなしていい時ではない。 そして疲労以上にに恐ろしいのは、その魔法行使の結果。目の前に突き付けられる現実。 未だ何処彼処で燃え続ける炎。その炎に照らされた地獄絵図。そこら中に目に付く死体、死体、死体、死体。真っ黒焦げになった人の死体、死体、死体、死体。真っ黒の棒のようになった手足をつっぱらかせ、目鼻立ちもわからない程に焼け焦げた死体、死体、死体、死体。己の招いた凄惨な状況。死体、死体、死体、死体。地獄をひっくり返したような、この有様。 臭いもいけない。肉の焼ける臭いが、胃の中身をはき出せとばかりに刺激してくる。きっと、しばらく焼き肉は食べられそうにない。 疲労、そして恐怖から来る全身の震え。連続して襲ってくる吐き気。今更の後悔。他にもっと冴えたやり方があったのではないかという疑念。男が泣いて良いのは急所を蹴られたときと親が死んだとき、後は蜂に刺されたときの三回だけだというのに、またもや涙がこぼれてきそうになる。 そうした一切合切のマイナスの感情を押し隠し、サシカイアは堂々と立つ。 似合わないと承知の上で号令をかけるなんて真似をしたのだ。ならば最後までやりきらねばならない。ここで自分がぶっ倒れてみせれば、きっと前線で戦っている者達は動揺する。だから、サシカイアはここに堂々と立っている必要がある。絶対に揺らいではならない。「男の子には、意地があるってもんだ」「いや、今お前女」 己への叱咤へ、すかさずのブラドノックのつっこみ。 む~、と睨む視線には応えず、ブラドノックは背後に振り返り、神官戦士ズにサシカイアと自分にトランスファーするように指示を出す。ちなみにブラドノックも地味にエンチャントウエポンなんかで冒険者を支援していた。こちらが派手な攻撃魔法を使わず補助に回ったのは、単純に、どちらに華があるかという話。正直火を盛大におこす必要のある精霊魔法より、ブラドノックの古代語魔法の方が準備要らずで簡単だった。だが、ブラドノックよりも美少女エルフ娘サシカイアの方が華やかで、士気高揚に向いているだろうという判断だ。戦乙女、と言う以前からの知名度もあるし。 駆け寄る神官戦士をよそに、サシカイアとブラドノックは視線を前線に送る。 大きく数を減じたゾンビを味方が駆逐していく。問題は数の差。それさえ緩和されれば、状況はひっくり返る。まだまだ敵ゾンビの数は多いが、これくらいの差であれば今の勢いなら何とかできると期待してもいいだろう。中には素のゾンビではなく、もうちょっと強力なブアウゾンビや、暗黒魔法サモンアンデッドあたりで呼び出したのであろうカボチャ頭の死霊──ジャック・オー・ランタンなんかの姿も散見したが、全てを承知の上でサシカイアに騙された振りをして、己をごまかしつつも覚悟を決めたシュリヒテが向かっている。見たところ、村人、冒険者と揃って雄叫びを上げながら敵を倒している。だから、このままで何とかなるだろう。 そんな風に安堵した瞬間。 順調に敵を下していたシュリヒテが、一体のゾンビの前で唐突に動きを止めた。 そして無防備に立ちつくす。「──?」 何をやっているんだと首をかしげ、次の瞬間サシカイアは顔色を変えた。「なっ!」 同時に気が付いたらしいブラドノックも声を上げる。 シュリヒテの前のゾンビ。 その性別は女で。 生前の名を、トリスと言った。 世界は、サシカイアが考えている以上に悪意に満ちていた。

そして実際に魚に触ってみて、釣りをすることの楽しさや迫力を肌で感じ、次に本当にネイテイブなフィールド(=自然にある釣り場、要するに管理釣り場以外の場所)にチャレンジするといった流れが良いのではないでしょうか。

レ・ミゼラブル☆7月1日(日)昼☆美声と背中で魅せる男たち<レ・ミゼラブル 7月1日(日)マチネ:2階下手>バルジャン:山口祐一郎ジャベール:岡幸二郎エポニーヌ:笹本玲奈ファンティーヌ:山崎直子コゼット:辛島小恵マリウス:藤岡正明テナルディエ:徳井 優テナルディエ夫人:瀬戸内美八アンジョルラス:東山義久前の回(23日)がいまひとつ入り込めなかったため、レミゼを見る気持ちや体調の大切さをひしひしと感じていたり座席も大きく感動に影響するのかな、と考えたりしていた昨今ですが、今日2F席でレミゼを観て、やっぱり席は関係ない!と思い直しました。今日はやはり化学作用でしょうか、とても大きな感動をもらうことができ、たくさん泣かせていただき、すっかり浄化されて帰宅しました。まずは祐一郎バルジャン!二日間の休演日のあとのマチネ。私好みのすっきりとキレがありながら味わい深くコクのある(←ビールみたい)惚れ惚れする声と背中と脚と、そして肌の表面だけでなく奥深くまでバルジャンの血が流れ始めたかのような深みを増した演技にすっかり魅了されました。荒っぽい動きをしながらも手は美しいし、パンやワインに喰らいつく動きもどこか上品な感じを残す祐バルですが、あのペッというツバする場面などはちょっと荒っぽさを感じてどきりとします。あそこ復活したのとてもよかったですね。宿屋のあとカバンは祐バルの左側にちゃんと放り出されました。今日の司教様は中井さん。まるで錦織さん?という感じのオペラチックな歌い上げ系の歌唱でしたが、落ち着いた音色の諭しはバルジャンの心に染み入ったようです。自分が感じられると独白も自分に響いてくるのです。音響のせいかどうか分かりませんが、独白の迫力もどんどん増してきているように感じます。テンションがどんどん上がり、rit気味に歌う終わりのところは2Fからだとジャベールの自殺のような渦がしっかりみえ、それはまだ不安を抱えながらも先に進むしかないバルジャンの気持ちを象徴しているかのようで、1階では感じられない不思議な感動を覚えました。『独白』『自殺』は2Fから観ることはかなりのお勧めです。(『STARS』も天を煽ぐジャベールの姿がよく見えてよかった)さて、さりげなく「背中と脚」と書きましたが、今回初の岡ジャベール、登場シーンから息を呑む存在感と美しさに圧倒されました。普段のぽわっとした顔などどこへやら、という全身を氷でできた刃で守っているかのような油断のない佇まいと動き。囚人バルがこんなに小さくみえたのは初めてです。市長になってからはあんなに上背のある祐バルなのに、ほんとうに不思議です。このジャベールに呼び出されたときのバルジャンが哀れであるほど、効果的というか、独白へのエネルギーが観ている側で勝手に倍増するのです。祐一郎さん、痩せたせいかぼろぼろの囚人服からのぞいた胸の部分もがりがりに見える。ボロ靴を履いた足首もあんなに細くて。もうこのへんで目頭がじわっとしてくるのが分かります。岡ジャベールの声も美声でありながら鋭さが増し、声の突き抜け方がまろやかさもありながら甘すぎにならず、今年はとっても気に入りそうです。以前はすこしナルシー度というか歌い上げて気持ちよか!みたいな感じがあったように思うことがあってジャベールにしては声が甘いかな、と思ったりしたのですが、今年はより無駄がなくてすっきりしているのに表情が増していい感じ。自殺では、前半は自分をまだしっかりと保っているのに、途中でがたがたっと自己破壊が起こるのがはっきりと表現されていて、死を選ぶことがすごく自然に見えました。死を選ぶしか自分を生かす道はない、という厳しい現実に苦しむ顔がとてもリアルでしかも2階からみるとジャベが呑み込まれていく渦は本当に幻想的で、どこか現実離れしたような凛とした空気をもつ岡ジャベールにふさわしい最期に思えてなりませんでした。市長になってからの祐一郎バルジャンとそれに疑いを持ち始める岡ジャベール。このふたりの構図はちょっと保存したいほど美しかったです。ブーツ入れて190cmらくに超えてますね。背中や脚がすっと伸びているおふたり。とくに囚人であれほど小さくいじけていたバルジャンがこの市長ですっと後ろから登場したときの空気!ちょっと手を振って退場しないで、ずっといてよ!とファンティーヌ以上に「待った!」をかけたい気分にならずにいられましょうか。ファンティーヌの山崎さんはだいぶソフトになってきたようですし、死の床はかなり死相が顔にでているように感じられました。声のだしかたがややきつめなのと表情がまだ硬い感じなので、まだ進化しそうですね。あとエピローグでお胸がなんだか気になりました(下着つけわすれ?位置がだいぶ・・・・気のせいでしょうか。前からあんなでしたっけ?)それにしてもファンティーヌに優しく語りかけ膝を折る市長。このブーツ姿反則です。やっぱりブーツのデザイン変わりました?あと死の床のファンティーヌを起こして優しく抱きしめるその背中のあたたかさ、美しさ!祐一郎さんのファンは、あちこちでファンテになりコゼットになり、そして見つめられてるマリウスになり、頭の中は妄想しまくりで実は大忙しなのです(笑)。岡ジャベと祐バルとの病院での対決もカッコイイのひと言という語彙のなさです。音量はやや岡ジャベのほうが太く強く響きましたが、最後にいすを割るところのバルの俺はやるぞぉをぉおお!!うめきが大好き。心臓速度x3です。のされた岡ジャベはあまりしつこくうめかず、わりと静かでした。なんかすっきりしててこういうのもいいわ。高橋りかちゃんを見かけたので「今日はコゼットかな?」と思ったらリトル・エポの日でした。リトル・コゼは佐藤瑠花ちゃん。すごく表情が豊かでお掃除しながらぶつけたりする姿に思わず涙でました。このコゼットとエポニーヌ両方やるというアイデアは教育上(?)とてもいいな、と思います。(こういうロールプレイを学校でやったらいいのにと思ったりも)最近森クミさんのテナより瀬戸内さんの美人ぎつねテナが気にいってます。ここだね~とか、行きな、さぁっさと♪の抑揚が独特でこわ~。で色気もあるし観ていて潔くてなんだか楽しいです。エンターテイメントに感じられるよさがあるんですね。宿屋は徳井テナですが。うーん。微妙さが増してます。なんだか観ていて盛り上がらないのはなぜ?いっぱいいっぱいな感じなのかな。面白おかしくしようとたくらんでましたが、祐一郎バルはちょっと声に含み笑いが混ざったものの態度は毅然としていて、お札を頭にのっけましたが、流れは自然でいい感じでした。私はこのくらいは全然OK派です。くるくる廻しは11回?お城も見られるのね♪のあとのハハっの声ほんとに自然で優しくて素敵です。キャメルのコートも展示よろしく!そしてバリケードのシーン。きょうは東山アンジョの初日ということで、期待高まっていましたが、もう輝かしいとしかまたいいようがない。前回の美しさは保ちながらも、その美しさだけが全面にでることなく、きりっとした男らしさが増し、歌唱も最初はさすがにちょっとだけ上擦った?と思いましたがすぐ強力になり、藤岡マリウスと非常にバランスがよく、きまっていました。今日一日で岸さんよりお気に入りになったかも?そして彼はダンスをするせいか、体の動きの1つ1つが滑らかで綺麗で、とくに脚を伸ばすところなどは惚れ惚れ。顔に反して太めでしっかりした声はリーダーらしさ、若さに満ち溢れて絵柄的に完璧で美学を感じました。やっぱりマリウスは山崎育三郎くんが好きなわたし。藤岡くんも声も体も立派で素晴らしいのですが、立派過ぎるというか、悩める姿やコゼットにめろめろ(死語?)になる様子がまだ硬い感じです。もっととろけてほしいです。(これは好みですね)それでもアンジョ、マリウスはとても拮抗していてバランスがよかったのは確かです。これでコンブフェールとグランテール(新しい方)に、何かが増せば最高なのですが・・。進化に期待しましょう!松原フイイはなんかキュートで目に飛び込んできます。笹本エポはもう最初にマリウスの髪型を「この髪好きだわ♪」と褒めるその表情はマリウスを心から愛している、もう切なくてこの時点で決壊が始まりました。今回の笹本さんのエポは本当にチャーミングで切なくてやるせなくて素晴らしい!MAからなにかが降りてきているかのように役を生きているようで、恵みの雨もほんとに可哀想で泣きました。寝ながらも腹筋がつい使えちゃうのは、MAでの成果(?)でしょうか。死にそうにしては声がしっかり、というところもややありますが、それでも完璧にエポです。捨て身で計算がないところがいい。これからが楽しみですね。そして初めての辛島コゼット。評判どおり綺麗なソプラノで3重唱などはほんとに綺麗にきまって嬉しかったです。他のコゼットよりやや大人っぽいというか、マリウスやバルへの気持ちをセーブしているようにも見えます。それがバルジャンの臨終のところではもっと我を忘れんばかりになって悲しんでほしい、という思いにもなります。でも辛島コゼットのもつ最大の魅力は、その品のよさ!バルジャンが大切に育てたお嬢様に欠かせない上品な空気をもっています。他のコゼはその点おきゃんな感じがするかな。それもまた魅力ですし、コゼットは3人を交互にみたいかも。あ、辛島さんは横顔のラインが素敵でした。でもバルジャンと親子、という点では今は菊地コゼが一番かな。うーん。まだまだ変わっていきそうですね。バリケードが崩れて死にゆくところ、やはり華麗なる東山アンジョは死に方も美しかったです。逆さになったアンジョの赤いベストが半分乱れているのをみて涙があふれました。東山アンジョはカフェソングでの亡霊姿もほんとに透明感があり綺麗で、よけいこの曲を効果的にします。まだ後ろにたつメンバーに対しては一体感があまり感じられないので涙がでそうでひっこむ感もあるのですが、8月末ごろはまた違った感想になるでしょう。あ、ガブの新井くんは表情がすごく好きです。演技派の芽を既に感じます。死ぬところとってもかわいそうで嗚咽しそうでした。それにしても祐一郎バルジャンの歌い方がダイナミックでありながら丁寧なこと!いつも書いてますが、フレーズの捉え方と終結のしかたが美しくすっきりしているのです。歌ってから語尾を無駄に延ばしたりビブラートかけたりして上手く人はたくさんいますが、それに頼らずまっすぐな声で勝負する潔さが好き。『彼を帰して』静物かと思われる座ったままのバルジャンから迸る祈りの思いの強さ。音楽と相まって盛り上がる気持ちがそのまま音となり表情となり伝わってきて、気が付くと頬を涙が伝わっていました。祈るバルジャンの苦悩も感じとれ深かったです。エピローグでは蝋燭をつけながら歌うシーンはどうしても蝋燭が消えたら?とか余計な心配を。そしてあのひざまずく祈りのポーズがまた心の中で勝手に絵葉書になってます(笑)ちょっと老人の脚のラインとは思えないのですが。眉など薄くてすごく老人らしいのですが、笑顔がまぶしすぎる老人です。ファンティーヌの姿を見つけたときの表情が神々しく、ここからは内部決壊が続き、大変でした。きょうは心臓発作けっこう目立ちますが、これって胸をううっと押えて苦しがるエポの動作に似ていたような?祐さんの場合、ほんとに突然襲ったという感じなので、ちょっとどきっとします。ほんとにあちらの世界に移るときは静かなのですよね。このあたりはレミゼのエピローグの素晴らしさを心と体全体で感じで、恍惚に近い思いでカテコもいらないくらい(?)満たされています。今日は華麗なる背の高い人たち、背中の美しい人たちが揃った日でしたが、やっぱり舞台は観てうっとり楽しむものでもあるし、眼福そして耳福でもあり、感動で胸いっぱいになって帰路につくことができました。アンサンブルさんのまとまりもこれからますます増すでしょう。7月8月楽しみです。

「猛き戦神マイリーよ、忠実なる信徒の祈りに応えてその威光を顕し、戦いに傷つきし勇敢なる戦士を癒したまえ」 ギネスの祈り、マイリー神の癒しの奇跡キュアーウーンズによって、シュリヒテの左腕、そして頬の傷が瞬く間に癒される。「助かった」 左手を握り開きして調子を確かめ、シュリヒテは礼を返す。そして、疑問を口にする。「どうなっているんだ? プリースト技能は失効したんじゃないのか?」「取り戻したんだ」 ギネスは胸を張る。「絶望のずんどこまで落ちた僕が、なけなしの勇気を振り絞ってシュリヒテ達、友達の為、すげえ格好良く立ち上がろうとした、まさにその時、偉大なるマイリー様の電波が届いたんだ」「で、電波?」 シュリヒテはその表現にちょっぴり身体を引く。「そう、今の僕はマイリー様の電波を絶賛受信中」 宗教にはまった人間特有のぐるぐるした瞳で、ギネスは堂々と応じる。その言葉が、どれだけ普通の人間をどん引きさせるかなんて、全く考えていないらしい。と言うか、逆に誇らしげですらある。心なし、魔神将まで引いているような気もした。「とにかく、絶望の淵から勇気を胸に立ち上がったナイスガイな僕に、マイリー様がこうおっしゃったんだ。《汝の勇気を祝福しよう》って。いやあ、その時の喜びはとても言葉では言い表せないね。これぞまさしく神秘体験。蒙が晴れたって言うのか、世界が違って見えるよ。僕はあの瞬間に生まれ変わったんだよ。そう、まさしく今の僕は超絶ディ・モールト・ハイパー・グゥレイト・ギネス2!」 ものすごい勢いで、ギネスは喜びを口にする。さっきと名乗りが変わっている、と言うのは、きっと無粋な突っ込みだろう。「それはともかく、セーブソウルやリザレクションは──」 シュリヒテは腰が引けていながらも、これは重要な事と、ギネスに尋ねる。使えて欲しい。そうすれば──と言う必死さがあった。「ごめん、取り戻したと言っても、またレベル1からの出直しなんだ。今まで貯めてきた経験値と今回分先取りで当座のレベルアップはしたけど、まだ、そこまで高レベルな奇跡には届かない」 しかし、ギネスは首を振り否定。それから、シュリヒテの落胆の表情を見て慌てて付け足す。「でも、元のレベルに戻るのは結構早いんじゃないかと思うよ。今の僕には元信徒割引が適応されるから、成長に必要な経験値が半分で済みそうだし」「……………そうか」 長い沈黙の後、シュリヒテはようやく頷いた。 いくら力を取り戻すのが通常の半分の期間で済むとはいえ、それではシュリヒテが望んでいることには到底間に合わない。それが故の長い沈黙。「とにかく、今は」 シュリヒテは剣を構え、こちらを伺っている魔神将に向き直る。「あのくそったれな魔神将を倒す。他のことは全部、その後だ」 そして、自分に言い聞かせるように、宣言した。 ロードス島電鉄26 ビューティフルネーム「性格が変わっちゃってるじゃないか……」 それを、ちょっぴり離れた場所で聞いていたサシカイアがぼそりと呟く。「それに何より、アレを聞いて、俺、何となく思うところがあるんだが」「偶然だな、俺も何となく思い浮かんだ言葉があるんだ」 ブラドノックも、ギネスのあまりの変わりように、頬を引きつらせながら応じた。「自分で技能を取り上げておいて、あっさり声をかけて再び与える。──なんてマッチポンプ」「て言うか、これって性質の悪いマインドコントロールじゃないか? ぎりぎりまで追いつめたところで優しい言葉をかけて依存させる。それでもって、めでたく信者獲得。典型的なパターンじゃないのか?」 ブラドノックが言うのは、いわゆる悪徳新興宗教なんかの信者獲得方法。 第1段階として、とにかく、信者候補を徹底的に追いつめる。それは肉体的であったり精神的であったりするが、たとえば、精神的なモノで行う場合。その信者候補を、徹底的に否定してやる。人格、容姿、考え方、その他諸々、全てを否定してやる。悪口雑言の集中砲火、多人数で1人を否定してやったりなんかするのもいい。その信者候補に、自分は全く価値がない、そう思わせてやる。生きている価値がない、そう思わせてやる。世界に味方は1人もいない、そう思わせてやる。とにかく、徹底的に追いつめてやる。 そうやって、いい具合に信者候補をぼろぼろにして。 そこで、満を持し、教祖様登場である。 精神的に追いつめられた信者候補に、教祖様はうってかわって優しい言葉をかけてやる。信者候補を肯定してやる。 そうすると、信者候補は唯一の味方である教祖様に救いを見、依存し、帰依してしまう。 そう言った、ある種の定型。 ちなみにこれは尋問の手法なんかでも使われている。厳しく詰問し人格まで否定する責め役と、逆に優しく肯定し味方してやる宥め役の分担。いわゆる「仏の──」なんて二つ名付きはその宥め役である。 それが、今回のギネスに酷くはまっているように思えてしまう。 しかも、そう言った一般的な手段にプラスして、本物の神秘体験まで付いてきているのだから余計に質が悪い。ギネスは完全に、いわゆる「目覚め」させられてしまっている。「……それでも、使えるようにしてくれた、って感謝するべきなのか?」 酷い荒療治。しかし、それくらい無ければギネスが使い物になったかどうかは疑問、とブラドノックは首をかしげる。「どちらにせよ、俺は益々マイリーを信じられなくなったね」 サシカイアは吐き捨てる。「それは重畳です。是非マーファを信仰してください」 声は背後から。 振り返ると、そこにはマッキオーレをはじめとする神官戦士達の姿。全員相当に精神力を削られている様子で、一様に顔色が悪い。「いや、エルフだから宗教全般お断り」 マイリーに隔意を抱いている。とは言え、他の神様を信仰する気もない。サシカイアはほとんど反射的に首を振って否定する。こういうときエルフはいい。エルフが種族的に神様を信じない事はこの世界の常識である。日曜日に聖書片手のおばちゃんが尋ねてきても、あっさりと断ることができる。それはとても素晴らしいことである。「それは残念です。あなたなら、ニース様と並んで信者獲得のための広告塔になってもらえそうでしたが」 と、言葉程残念そうでもなく、マッキオーレが応じる。 お前らもか、マーファ神官。 こちらもろくでもない、と思わず口元を引きつらせるサシカイアに向かい、マッキオーレは一転、表情を引き締めると言った。「我々も、覚悟を決めました」 シュリヒテ、ギネスは連携して魔神将に挑みかかった。 魔神将は、二対一を卑怯と罵ることもなく、逆に楽しくてたまらないという風に迎え撃つ。 そう、まだ魔神将には楽しむ余裕があるのだ。 ギネスの重い一撃をポールアックスではじき返し、その隙を──と迫るシュリヒテの斬撃を柄の部分で受け。いなし、石突きの部分で腹に一撃。鎧で受けたからダメージはなさそうだが、シュリヒテは突き飛ばされて彼我の距離が開き、ギネスとの連携を妨げられる。 全く、繰り返すが、こういう連中と一騎打ちのできるベルドは、心底化け物だ。シュリヒテは強い。ギネスだってシュリヒテには劣るが十分に強い。一撃の重さに限ればシュリヒテ以上ですらある。なのに、その二人を敵に回して、平気で優勢に戦う。魔神将という生き物は、見た目通り、いや、見た目以上の化け物だった。 だけど。 こちらは所詮、ベルドのような英雄の器ではない。 わざわざ、魔神将との一騎打ちにこだわる必要はない。どころか、手段を選ぶつもりもないのだった。「万物の根元にして万能なるマナよ……雷撃よ、万条の雷よ、我が指する所のものを囚える牢獄とならんっ!」 流石の魔神将も、二対一となれば、こちらへの警戒もゆるんだ。 その隙を付いてのブラドノックの詠唱。 その背後に累々と倒れているのはマーファの神官戦士達。まるで死体のようにぴくりとも動かない彼らは、その精神力を限界まで絞り尽くしている。トランスファー・メンタルパワーによる精神力の譲渡。それを文字通り、最期の1ポイントまでの全てを、サシカイアとブラドノックに行ったのだ。 精神力限界までの行使。これは、ゲームをする上では割合頻繁に行われる。特に、敵が精神にダメージを喰らわせてきて、その結果が死や従属を招くような場合。計算して精神力を使い尽くし、自ら気絶する。あらかじめ精神力がゼロになっていれば、それ以上の精神的な攻撃を受け付けない。自分から気絶してしまった者は、敵の精神的な攻撃による死や支配から逃れることができる。これは、リプレイあたりで使われた事もあって、既に常套手段、確立した手法となっている部分もある。 しかし、現実。 気絶する程に精神力を使い尽くすのは、そんなに簡単に行えることではなかった。 何しろ、気絶。それは即ち無防備な状態で戦闘の場に転がると言うこと。流石に直接の斬り合いの場からは離れているだろうにしても、安全、安心とは遙か遠くに存在する。敵がその気になって攻撃してくれば、あっさりと殺されてしまう。そんな状態に自ら陥る。生死を、運命を他者に委ねる。生半可な覚悟でできることではない。仲間によほどの信頼がなければできることではない。 特に今回、神官戦士達にとっては、慌てて組んだ得体の知れない4人組との共同作戦。両者に隔意もあったし、信頼関係の醸成などしている時間はなかった。その上で、敵は格上。全員でかかっても勝ち目などほとんど無い。そう言うレベルの敵。まともに戦えるのがサシカイアらだけだとしても、実際に己の命、未来を預けるのに、どれだけの覚悟が必要であったか。「ならば、その覚悟に応える!」 ブラドノックが珍しく吼え、魔法を発動する。 ライトニングバインド。雷の縛鎖。 しかし、その思い、勢いとは裏腹に、魔神将はきっちり抵抗して見せた。「アレ?」 と、首をかしげ、納得いかないという顔をするブラドノック。ここは格好良く魔法がかかり、勝利を決定的に引き寄せる。そして自分はヒーロー。シュリヒテばっかりじゃなくて、これで自分も美少女、美幼女を中心にモテモテになる。そんな都合のいい未来予想図を描いていたのかも知れない。 しかし、この魔法は凶悪きわまりない代物。抵抗されたのはもちろんマイナスだが、それでもなお、その行動にペナルティを付けるのだから、意味は十分にあった。 雷の鎖に縛られ、明らかに動きが鈍くなった魔神将。「今だ!」「突貫!」 そこへ、シュリヒテ、ギネスが襲いかかる。 魔神将は迎え撃とうとして。「風の精霊よ、この一撃を敵に運べ!」 二人を追い越した一矢の襲撃を受ける。サシカイアの精霊魔法、シュートアロー。 風の精霊に運ばれるこの矢は同じく風の精霊による守り、ミサイル・プロテクションなどの防御手段をあらかじめ用意しておかない限り、必ず命中する。 とっさに翳した魔神将の太い右腕を掠め、矢は見事に魔神将の顔──その右目に突き刺さった。「GUGYAAAAA!」 魔神将の苦鳴。 そこへ、シュリヒテ、ギネスの斬撃。 それでもギネスの一撃をはじき返す魔神将。 しかし、シュリヒテの攻撃は魔神将の防御をすり抜け、初めてクリーンヒットしていた。魔神将の右の肩口に命中、刃が大きく深く切り裂く。人外の血が舞って、驟雨の如く地面に降り注ぐ。「今だ、畳み掛けろ!」 勢い付き、シュリヒテが吼えて、さらなる攻撃を加えようとする。 ギネスも続き──「FALTZ」 それは、先刻も聞いた1音節の神聖語。ただし今度はギネスではなく、魔神将の口から発せられた。 瞬時に。魔神将を中心に、不可視の衝撃波が爆発的に広がっていく。神聖魔法、否、この場合は暗黒魔法フォース・イクスプロージョン。 シュリヒテを、ギネスをはじき飛ばし、更に広がってそれはサシカイアらの場所にまで届いた。「──!」 油断して近付きすぎていた。 シュリヒテがピンチで前のめりになっていた。それで彼我の距離が短くなっていた。それを今の今まで深く考えていなかった。魔神将がこれまで魔法を使ってこなかったにしても、油断しすぎだ。 今更何を後悔しても遅い。甘い自分を罵っても遅い。サシカイアは精神を集中、身体の中のマナを活性化させて必死の抵抗。 全身、前面に見えない衝撃がぶち当たる。腰を落として堪えようとする。 多分、抵抗には成功したのだろう。でなければ間違いなくこの一撃で死んでる。まだ生きているからには、きっと抵抗に成功しているはず。 だが。 小柄で細身、華奢で体重の軽いサシカイアは、抵抗に成功してなお、あっさりと吹き飛ばされていた。射程ぎりぎりだったおかげもあって、短い空中遊泳で済んだ。とは言え、地面にたたき落とされて痛打。受け身を取ることもできなかった。意識が飛びかける。何だか一瞬殺風景な河原が見えた。何だか子供が石積み遊びをしている。なになに、この川の渡し賃は金貨六枚?、それは高いだろう、まけてくれ。この世のモノとは思えない美しい向こう岸、彼岸で手を振っているのはおばあちゃん? これはヤバイと大慌てで覚醒したらしたで、全身痛くて息が詰まる。 ひっひっふーと、痛みを追い出す呼吸。ヤバイ、これはきっと生死判定寸前だ。涙目で、歯を食いしばって身体を起こす。もにょもにょと命の精霊にお願い。嘘みたいに痛みが消える。しかし、これで精神力が再び底を突きかけだ。ファイアボルト一発で気絶できる自信がある。 糞、ミュートが正解だったか、と言うのもまた、今更の後悔。精神力を融通して貰ったとは言え、ソレはなけなしの僅かなモノ。あまり達成値の拡大はできそうになかったので、抵抗を貫けるかどうか不安。だから隙を作ると言うことに注力して、反撃前に一気にケリを付けようと目論んだのだが、どうやら虫が良すぎた。 ここで例の咆哮もきついが、これで魔神将が路線変更して、武器戦闘から魔法戦闘に切り替えてきても、こちらの勝ち目は僅かにもないだろう。 そう思い、絶望的な気分になるが── 魔神将はシュリヒテの一撃を食らった右肩を押さえ、立っている。 治療中? いや違う。 未だ変わらず、雷撃の鎖が、その身を縛っている。残念なことに、そのモンスターレベルに阻まれて、抵抗されたライトニングバインドの攻撃力ではダメージを全く出せていない様子。せいぜい、毛皮の表面を焦がす程度。 しかし、それでも、雷撃の鎖はその行動を邪魔する。何だか血行が良くなって肩こりが取れそうに見えても、ソレは勘違い。確実に-4のペナルティが付いているはず。だと言うのに、魔神将はディスペル・マジックで解除することもしない。 何故? あるいは、古代語魔法を使えないという可能性もある。 しかし、怪我の治療をしないのは不審だ。フォース・イクスプロージョンを使ってきたと言うことは、最低でも5レベルのプリースト技能(ファラリス)があるはず。多分、他の魔神将と同様に、9レベルと見ておいて間違いないだろう。ならば、治癒魔法を使えるはず。文字通り人外の体力持ちとはいえ、シュリヒテの与えた傷は決して浅くない。放置しておく理由はないだろう。追撃を優先するというならばともかく、ただ立っているだけなのだから、それくらいできる間があったはず。 何故? 首をかしげ、サシカイアは視界の隅に捉えたゾンビの死骸に目を開く。 ゾンビは、誰が作っていた? 上位魔神ギグリブーツ。ソレは間違いないだろう。原作でもそうだったし。 しかし、ギグリブーツだけで、あれだけの数を準備できたのか? その準備に使えた時間は、最長で見積もってもせいぜい2週間程度だろう。サシカイアらが多くの魔神やその眷属を屠ったのがそれくらい前。その後に方針転換、ゾンビ作戦となったようだし。それ以前には、ゾンビの集団なんて噂はなかったらしいから、推測だがこれはほぼ正解のはず。おまけに、サモン・アンデッドで招いたと見えるカボチャ頭なんかの存在もある。 ──となれば、ギグリブーツ一匹であの数は無理があるのではないか? 魔神将に視線を送る。 ライオン顔のせいで、その表情の動きは良くわからない。 しかし、どこか疲れているように見えなくはないか? あるいは、サシカイアら以上に、連日のゾンビ作りで精神力を消耗した状態だったのではないか? 己に都合のいい妄想? そうかも知れない。 そうでないかも知れない。 どちらにせよ、ここで弱みを見せるのは拙い。 はっきり言って、精神力は限界近い。それでも、こちらはまだまだぴんぴんしていますよ、そう言う顔を無理して作る。作れていると信じる。 シュリヒテ、ギネスも立ち上がっている。至近で受けたというのに、こちら二人は先刻のサシカイアよりも余裕がありそう。 くそう、生命点の大きい奴がうらやましい。 我が身、エルフの脆弱さに涙しつつ、魔神将に向かい立つサシカイア。 尤も、他の3人もサシカイアよりも余裕があると言うだけの話。怪我はギネスがマイリーに祈って即座に治療しているが、蓄積している疲労はどうしようもない。ブラドノックはサシカイア同様精神力切れ寸前だし、シュリヒテもいい加減疲労の極みにある。これまであまり働いていないギネスはまだ余裕があるが、1人だけではどうにも厳しい。 さあ、どうする? どうすればいい? このまま戦いを続けても、勝てるビジョンが欠片も見えてこない。いくら魔神将が雷鎖の呪縛を受けて動きを阻害されている、怪我で多少は弱っているとはいえ、それでもこちらよりは余裕があるように見える。純粋な体力勝負では、もとより人に勝ち目はない。 いくら考えても画期的な逆転の方法が見つからない。 本当に頭働いているのか? ああ、糖分が欲しい。 疲労のせいか、思考も千々に飛んでまとまりがない。焦りが更に思考の停滞を招く。 そんなサシカイアの背後に人の気配。「ゾンビ他の始末終わりました。戦乙女、我らに指示を」 それは、ゾンビの始末をしていた冒険者や村人たち。見れば言葉通り、あれだけいたゾンビなんかは片付いたらしい。 はっきり言って、魔神将を相手に戦うには、力不足というのですら高評価。そんな連中。だが──「ギネス、戦いの歌!」 サシカイアは鋭く命じる。「え? うん、わかった」 ギネスは素直に頷き、一つ息を吸い込む。「僕の歌を聴け~っ! ──きらっ!」 星が飛びそうなウインク一発。ポーズを決めてマイリーに祈りを捧げると、ギネスは高らかに歌い始める。それは、まさしく戦いの歌。いつかの、腰が引けた軟弱っぽいソレとはまるで違う。その歌詞はもちろん、歌声もまた、士気を高揚させる勇壮なモノ。「おぉ」 と初めてこれを聴く村人達は感嘆の声を上げている。彼らも疲労しているだろうが、戦いの歌の効果で高揚し、これでまだまだ戦える、これなら魔神将とでも戦える、そんな風に感じているのだろう。 だが、残念なことにそれは思い違い。鎧袖一触、十把一絡げ、そんな感じで屠られるモブキャラはあくまでモブキャラのまま。少々のステータス補正など、魔神将との絶対的なレベル差の前には気休めにもならない。 ならないが、モブキャラなだけに数はいる。その連中がやる気満々で武器を構えて並んでいる。もしサシカイアの推測通り、魔神将の精神力に余裕がないのであれば。高レベル魔法という範囲攻撃を使えないのであれば。──雑魚とはいえ、この数が鬱陶しいことになりはしないか? そしてもう一点、戦いの歌を要求したのは、例の咆哮の無効化を狙ってのこと。原作、ロードス島戦記で古竜の咆哮すら無力化した効果を期待してのこと。あの種の特殊攻撃は精神力を消費しないだろうから、封じておかないと、この場合すごくヤバイのだ。咆哮一発で、ばたばた倒れて全滅されてしまっては、なんにもならない。 さあ、どうする? そう視線に込めて、真っ正面から魔神将をにらみつける。 実際にこの連中をけしかけたりはしない。そちらがやる気ならやってやるよと、睨み合いに留める。戦いは数だよと言った偉い中将閣下の言葉を信じたいが、それでも勝てる気がしなかったりする。実のところ9割9分9厘まではったり。しかし、それくらいしかもう、打てる手を思いつかなかった。自分の命がかかっていなかったら、あっさりお手上げするところだ。 最悪、こいつらが戦っている間に逃げることにする、とは考えていない振りをしておく。肌が黒くなってしまったら、精神力抵抗+4は魅力だが、やっぱりヤバイし。「──っ」 小さく、魔神将が喉の奥で笑ったように見えた。炯々たる光を宿す隻眼はサシカイアを射抜き、そのはったりをあっさり見透かしているようにも見える。冷や汗が頬を伝う。 しかし魔神将は戦いを再開しようとはせず、目に見えて、その身体から力が抜ける。「我が名はラガヴーリン、魔神将ラガヴーリン」 武器を肩に担ぐと、魔神将は下位古代語で高らかに名乗りを上げる。「しゃ、しゃべった?」 誰かの驚きの声。 何度目かの繰り返しだが、重要なことなのでもう一度言っておく。見た目化け物なので勘違いしがちであるが、魔神の知能は割合高い。魔神将ともなれば、相当なレベルになる。人に遜色ないどころではなく、下手するとそれ以上に。 それにしても、ヒュ○ケルや○リスでなくて良かったと、サシカイアは心底思う。特に後者はダメだ。斧をぶんぶん振り回すよっ!、って全然勝てる気がしない。(@公式画像掲示板) サシカイアの安堵をよそに、魔神将ラガヴーリンはシュリヒテに、そしてサシカイアに視線を向けて問う。「人の剣士と妖精の娘よ、貴様らの名前は?」「シュリヒテ! シュリヒテ・シュタインヘイガー!」 戸惑いの顔はほんの一瞬。堂々とシュリヒテが名乗りを返す。「超絶ダイナミック・エクセレント・ギネス2!」「ブラドノック・ケルティック!」 この二人は聞かれていないと思うのだが。 ギネスの名乗りがまた違うのは、もう突っ込んではいけないことなのだろう。 てか、ブラドノック、姓あったのか。……何だか無理矢理臭い。ギネスの名乗りに対抗して、今この瞬間にでっち上げたというのが真相かも知れない。 その二人の名乗りを魔神将がすげなくスルー、視線はまっすぐにサシカイアに向かう。 その視線に応え、サシカイアは薄い胸を張り、堂々と名乗りを上げた。「ペペロンチャ!」 ……何だか色々と台無しだった。

場所をゲイロードの館の片隅、練兵場へと移して行われたベルドとシュリヒテの一騎打ちの結果は、順当なモノとなった。 もちろん、それはベルドの勝利。 シュリヒテは練兵場の床に仰向けにひっくり返り、荒い息を吐いている。 対するベルドは、多少息を荒げてこそいるが、まだまだ余裕はありそう。おまけに、こちらはきちんと二本の足で立っている。 勝者と敗者が、非常に分かり易い。 ちなみにギネスは早い段階でノックアウトされて、練兵場の片隅にひっくり返っている。これまた、順当な結果だろう。「まあ、最初から予想されていた結果だよな」 どちらが勝つか、なんて賭は成り立たなかった。何しろ、仲間であるサシカイア達からして、シュリヒテの勝利なんて欠片も信じていないのだから。どころか、おそらくシュリヒテ自身だって、己の勝利なんて想像も付かなかったに違いない。「すごいですね」 一緒に戦いを眺めていたニースが、感嘆するしかない、そんな風に言葉を漏らす。 息が詰まりそうな緊迫感を持った睨み合いから、転じてすさまじい斬撃の応酬。訓練用の刃引きされた剣とは言え、その勢いであれば掠めただけで致命傷となりそう。そんな斬撃を、時に受け、時にかわし、時にいなす。めまぐるしく立ち位置を変えて、己に有利な場所を占位しようとし、激しく身体をぶつけ合う。 ニースとて戦士の訓練を積んでいる。だからこそベルドとシュリヒテ、この2人の呆れる程に他と隔絶した強さがよくわかるのだろう。そして同時に、この2人のレベルになってようやく戦える、魔神将の強さも。ニースの眦に浮かぶ険しいモノは、これから先の魔神との戦いを思ってのものに違いない。その戦いは熾烈を極め、多くの犠牲者を出すだろう。そのあたりが、善人のニースには辛いのだろう。「しかし、正直なところ、シュリヒテはこっちの予想以上によく戦えていたなぁ」「そうなのですか?」 サシカイアの言葉に、ニースは小さく首を傾げる。コレは、原作のベルドの強さを知っているサシカイアと、知らないニースの認識の差。ニースにしてみれば、シュリヒテだって頭抜けて強い戦士なのだ。 ベルドとシュリヒテ。 その戦いは、先刻の言葉通り、サシカイアの戦う前の予想よりも良い勝負だった。仲間甲斐のないことだが、圧倒的に強いベルドにシュリヒテが蹂躙される、そんな戦いになると思っていたのだ。しかし、実際にやってみれば、意外にも両者の戦いはほぼ互角と見えた。「考えてみれば、いくらベルドが強いって言っても、レベル的にはシュリヒテと1しか違わないんだよな」 原作フィルターがかかりすぎていたのか?、と、サシカイアは自省する。シュリヒテ10レベルファイター、ベルド11レベルファイターで、その差はサシカイアの言葉通り1でしかない。能力値だって、圧倒的な水を空けられているわけではない。どちらもシュリヒテ不利は間違いないが、相手にならない程の極端な差はついていないのだ。その時の賽の目次第では──もとい、その時の心身の状態や運の善し悪しで、簡単にひっくり返ってしまう程度の差でしかない。「レベル?」 と横でニースが首を傾げている横で、サシカイアは己の思いに沈む。 シュリヒテの思わぬ善戦。これは良い。仲間は弱いよりも強い方が良いに決まっている。だから、良い事なのだが、少し気になったこともあった。そして、それはこうして考えているよりも直接答えを聞いた方が早いと、ベルドの方に向かうことにした。 ベルドの横では、フラウスが甲斐甲斐しく世話を焼いていた。汗を拭うためのタオルを渡し、喉を潤す為の水を渡しと、まるで世話女房のよう。そのフラウスがベルドに接近するサシカイアに気づき、途端、何かを警戒するような色を瞳に浮かべた。「……気が変わって、やっぱり俺の女になる気になったか?」 ベルドも同様にサシカイアの接近に気が付くと、阿呆な事を言ってきた。「その気は欠片もないよ」 ひらひらひら~っと手を振って、主に、今のベルドの台詞で警戒の度合いを高めたフラウスに告げる。 サシカイアの見るところ、余計なことを言ってくれたベルドの口調には真剣味が感じられなかった。本気で言っているわけではないのだと簡単にわかる。と言うか、じゃないと嫌だ。それをいちいち真面目に受け取るフラウスは、そう言う性格だと言うこともあるのだろうが、それ以上に、いわゆる恋は盲目状態。事が事だけに余裕がないのだろう。原作では割と物わかりのいい女、ベルドの浮気に寛容だったが、アレはベルドの女になってからの話。それ以前の今の段階では、そうした余裕を持てないのだろう。「横に抱き心地の良さそうな人がいるんだから、そっちを口説けばいいんじゃないか?」 睨み付けてくるフラウスの視線に、矛先を逸らす必要を感じてサシカイアは提案してみた。アライメントがあちら寄りであるし、早急に対処しないと、邪悪認定されて滅ぼされてしまう危険もある。「なっ」 フラウスはコレを受けて絶句。僅かに頬を赤く染める。あうあうと、咄嗟に言葉が出てこないようで、助けを求めるみたいにして視線を左右に彷徨わせている。 これでサシカイアを警戒する余裕もなくなった様子。試みは成功したと、僅かに安堵。 しかし、ベルドはフラウスを眺め、言った。「こいつは硬すぎる」「ベルド!」 ベルドの言葉にフラウスは激しく反応した。「訂正を要求します。確かに私は戦士としての訓練を積んでいますから、普通の女性より筋肉質なのは認めます。しかし、まだ十分女性としての柔らかさを保っているはずです。だいたい、女性に向かってそのような──」「頭の話だ」 その剣幕に辟易したように、短くベルド。「……」 かぁーっと、音を立てそうな勢いでフラウスの顔が赤く染まっていく。多少冷静になって、自分が興奮して何を口走っていたのか、理解してしまったのだろう。 それを眺めつつ、サシカイアはフラウスに抱いていた当初の苦手意識が解消されていくのを感じた。 割と話が通じる。と言うか、結構からかい甲斐のある人間なのでは?、これまでのやりとりを見てそんな風に感じた途端、緊張し身構えている必要を感じなくなったのだ。 結局の所、サシカイアがフラウスを苦手に感じたのは、一般人が警察官に抱く苦手意識のようなモノだったのだろう。別に悪いことをしていなくとも、警察官を見かけると、思わず緊張してしまう。そうした小市民的な感覚。しかし、その警察官の中身が知っている人であれば、緊張は軽減される。それだけの話。「それで、何の用だ?」 こいつをからかいに来た訳じゃないんだろう?、とベルドが聞いてくる。「ん。いくつか聞きたいことがあるんで」 と頷き、前置きして、サシカイアはいくつか質問させて貰うことにする。「うちのエースはどうかな?」「強いな」 返事は即座に帰ってきた。その口調、表情から、サシカイアはこれはリップサービスではなく、ベルドの正直な感想だと判断した。そもそもベルドは、その種のリップサービスをする人間だとも思えないし。「正直なところ、ここまでやるとは思わなかった。残念ながらやり合ったことはないが、ヴァリスの白の騎士とか、ドワーフの鉄の王あたりとも十分戦えるんじゃないか?」 大絶賛。これは、最大級の賛辞と見て良いのではなかろうか。 しかし。「割に、あんまり楽しそうじゃなかった理由は?」「……気が付いていたのか?」 そう、それがサシカイアの感じた疑問。ベルドはシュリヒテとの戦いの途中から、極々僅かながら、興が失せたという表情を見せるようになっていたのだ。ベルドと言えば戦い大好き。それも、一方的な蹂躙ではなく、強い相手とのぎりぎりの戦いに喜びを感じるタイプ。サシカイアはそう言う認識をしている。それが、一見良い勝負をしている最中にその表情。サシカイアでもなくとも気になるだろう。「実は、手を抜いて相手をしていた?」「いや、本気だった」 サシカイアの考えた可能性に、ベルドは首を振って否定する。「俺は世辞は言わん」 特に、戦いについては、お世辞がそいつを殺すことになりかねないからな、とベルド。 己の力量を正確に測れず戦うことは、時に死を招く。そして、ベルドのような有名で圧倒的に強い人間の言葉は、過剰にして過分な自信を与えてしまう危険がある。「あのベルドが認めたのだから」、と自分の実力を実際より高く見誤ってしまいかねない。だから、お世辞は言わない。弱いならば弱いとはっきりと告げる。ベルドは口にこそしなかったが、そう言うことだろうと、サシカイアは理解した。「じゃあ、あの表情の理由は?」「あいつは確かに強い」 未だ練兵場の地面に転がって立ち上がれないシュリヒテをさしてベルド。いつの間にかニースがそちらへ行って、水なんかを渡している。これは見栄を張る場面だから、未だ寝ていると言うことは、本当にろくに動けない程に疲労しているのだろう。そして、それを承知の上で、邪魔をしなければと言う思いがサシカイアの頭を掠めるが、流石にベルドとの会話中と言うこともあって、涙を飲んで自制する。「だが、怖くない」 サシカイアの内心の葛藤に気づくはずも無く、ベルドが続ける。「怖い?」 首を傾げて聞き返すと、僅かに考えてベルドが補足する。「あいつには俺を倒そうという気持ちが無い。俺に勝てると初手から思っていない。勝てるはずがないと思っていやがる。実力こそ劣るが、その点では、あっちのドワーフの方がマシだった」 と、端っこの方に倒れたギネスを指さす。 しかし、それは当然だろうとサシカイアは考える。 何しろベルドと言えば、ロードス最強の、否、フォーセリア世界最強の戦士である。シュリヒテが、シュリヒテごときが勝てる相手ではない。勝って良い相手ではない。そんな思いがある。もちろん、勝てる方が魔神との戦いが楽になるものわかっているが、原作ファンとしては、なかなかに譲れない一線でもある。やっぱり、ベルドを含む6英雄には強くあって欲しいのだ。「もちろん、あっちがどんなつもりだろうが、俺は負ける気はない。それが、初手から勝つ気のない相手なら、なおさらだ」「だからと言って手を抜いているわけではないと思うけど?」「そう言う話じゃねえさ」 精神論的な話だろうか?、とサシカイアは首を傾げる。 ベルド自身も、うまく説明出来ない様子。あるいは、その気がないのか。 何となく、サシカイアは沈黙してしまう。「さてさて」 そこで手を打ち鳴らして注目を求めたのはゲイロード。あまりこちら方面の興味はなさそうに思えたのだが、しっかり同道してベルドVSシュリヒテ戦を一緒に見学していた。その横には、彼を師匠と崇めるようになったブラドノックと、そこまでは行かないが一定の尊敬を抱いた様子のウォートがいた。 ゲイロードはまるで舞台俳優のように、周りの人間の視線を計算しているかのような大仰な仕草で告げる。「どうやら決着が付いたようですな。まことに見応えのある、見事な戦いでした。まさしく、お二人の強さは勇名に違わぬモノ。このアラニア王族である私、ノービス公ゲイロードも心から感服いたしましたぞ」 べらべらべら~っと2人の戦いを賞賛すると、話題はこの後のパーティの話となった。こちらの方が主題だろう。確実に言葉に入っている力が違った。 長々としたゲイロードの語りは右耳から左耳へ。要約すれば、ゲイロードは、サシカイアらの歓迎のパーティを盛大に開いてくれるというのだ。そして、それだけわかれば十分だった。「部屋と着替えを用意いたしました。そちらでパーティの時間までおくつろぎ下さい。なお、パーティは大宴会場「ベヒモスの間」で夕刻よりを予定しております。皆さんお誘い合わせの上、是非参加してください」 と、事務的な補足は、ゲイロードの後ろに控えたメイドからなされた。 そして、ここからが、サシカイアの悪夢の始まりだった。 ロードス島電鉄42 マイ・フェア・レディ「止めろ、しょっ○ー、ぶっとばすぞぉ!」「誰がその、しょっ○ーですか?」 サシカイアの心からの叫びは、ニースにあっさりと切り捨てられた。「ニース、こちらなんて良いと思いませんか」 メイドさんの手によって、サシカイアにあてがわれた部屋に運び込まれたドレス掛け。そこにいくつも並べられたドレスの中から、草色のモノを選んで、フラウスがニースに同意を求めてくる。流石はアラニア王族ゲイロードの用意させたドレス。デザインも素材の品質もお針子の技術も、全てが最上級。着用者の魅力を高めること間違いなし。その種の事に興味のないサシカイアでも、自分に関わりがなければ、最大級の賛辞を送る、そんな逸品。「てか、何でフラウスまでいるんだよっ!」「せっかく協力してくださるというのに、その言い方は感心しませんよ」 めっ!、とニースがサシカイアを窘める。 パーティまでの休憩時間、旅の汚れを落とした後、与えられた部屋でくつろごうと考えていたサシカイアの計画は、あっさりと破綻した。この2人、ニースとフラウスの不意の襲撃によって。「いや、いいから。俺には必要ないから」 サシカイアはぶんぶん手を振って否定する。「俺は普段着で十分だから」「ダメです」しかし、ニースはにべもない。あっさりとサシカイアの言葉を切り捨てる。「せっかくの滅多にない機会です。サシカイアも、きっちり着飾ってパーティに出るべきです」 そう、どんなに素晴らしいドレスも、自分が着用しなければならないとなれば、素直に評価できなくなる。 普段通りの格好で良いやと気楽に考えていたサシカイアに、ニースらは駄目出しし、きちんと盛装、ドレスに着替えることを求めたのだ。「ゲイロード公はアレでアラニア王族ですからね。その彼が開くパーティです。村の祭りとは違うのですから、きちんとした格好をしなければ失礼に当たります」「何でそんなに積極的なのさ」 ドレスを持って迫るニースに、サシカイアの声は悲鳴に近くなる。「てか、ここは、『このようなご時世に贅沢なパーティを開くだなんて。世の中には食うや食わずの人たちが溢れているというのに』……とかって、眉を顰めて否定的な態度とるんじゃないのか?」「……誰の物まねですか」 無駄にシーフ技能を使って見事に物まねをして見せたサシカイアに、不機嫌な表情を向けるニース。しかし、ここで怒るのも大人げないとでも思ったのか、頭を軽く振ると感情をリセット。一転、優しい声になって言い聞かせるみたいに告げてくる。「ええ、サシカイアの言うようなことは承知しています。いますが、ここでそれを言っても詮無いことも同時に理解しています。ゲイロード公にそれを告げたところで、彼が生活を改めるとも思えません。パーティの為に準備された食材が、飢えた人たちに回されることもないでしょう。ならば、せめて我々が用意されたパーティを楽しまなければ、本当に全てが無駄になってしまいます。締めるところは締める。抜くところは抜く。常に緊張状態では、これから先、おそらく長期戦になるであろう魔神との戦いを切り抜ける事は出来ません。大事なのはメリハリです」 ニースってこんな頭柔らかかったっけ?、と首を傾げるサシカイア。それから我に返り、慌てて言う。「楽しむってのが主眼なら、俺は普段着で良いから。ドレスなんか着たら色々と楽しめないから」「そうなんですか?」 ニースが小さく首を傾げて尋ねてくる。「そうなんです」 ここが大事と、サシカイアは瞳に巌の意志を込め、真っ直ぐにニースの目を見ながら頷く。 しかし。「……でも、だめです」「え?、ちょっ」 問答無用ですか?、何でそんなに乗り気なんだよ、と色々サシカイアは考えるが、わかったことは一つ。ニースには譲る気は欠片もないと言うこと。 ならば、と頭を切り換える。 正面突破が無理ならば、別の方向を考える。押してもダメなら引いてみろ。舌先三寸がダメなら、腕先一尺で。いや、流石にニースに暴力は拙いので、それ以外の方法で。 つまり。 サシカイアはにげだした。「逃がしませんよ」 しかし、まわりこまれてしまった! いつの間にか、ニースとアイコンタクトか何かで意思疎通したフラウスが、逃げ道を封じるように部屋の入り口の方に移動していた。いくら敏捷度に自信のあるサシカイアとはいえ、行動を先読みされては出し抜くことが難しくなる。おまけにフラウスだって能力値は悪くないのだ。扉の前に踏ん張られてしまえば、それを抜いて脱出というのは不可能だろう。 入り口は封じられた。ならば窓か?、幸いシーフ技能持ち。多少の高さであればシーフ技能で無傷で飛び降りることが出来る。この部屋は二階に位置している。いくら天井の高い立派なお屋敷とは言え、飛び降りても全く問題ない高さだ。 だが、部屋の入り口へ行こうとしてその後の方向転換。その一瞬の無駄が、明暗を分けた。 がしっと。 音が立ちそうな勢いで、背後からニースの手がサシカイアの肩に乗せられていた。「逃がしませんと、言いました」 にっこりと、もの凄くステキな笑顔でニースが言う。肩に乗せられた手は万力の如く──と言うのは言い過ぎだが、非力なサシカイアでは振り払えない程度に、しっかりと捕まえている。「話せばわかる」「問答無用です」 ニースはあくまでステキな笑顔を崩さない。「ドレスで着飾るのはもちろんですが、お化粧もしっかりしましょうね」 結婚の守護者でもあるマーファ流お化粧術の腕の冴え、見せて上げましょうとニース。コレでマーファ神官は、数多のカップルをゴールに叩き込んできたのですよ、とノリノリである。「化粧までっ!」 満面の笑顔のニースとは逆に、絶望に顔色を変えるサシカイア。「……正直、良い機会だと思うんですよ。素材の良さの上に胡座をかきっぱなしで、その種の努力を全くしてこなかった人が着飾るには」「努力をしないでコレ?」 フラウスも、何だかとっても納得いかないという顔をして、サシカイアの方に近付いてきていた。「ルシーダの時も思ったけど、これだからエルフはっ」「ええ、全く、これだからエルフはっ」 2人の連携の理由はコレか?、と思い当たるも、それが救いになることはない。「とりあえず、剥きますか」「そうですね、とりあえず剥きましょう」 どころか、不穏当な会話を成立させている。「ちょ、待て、いや、待ってくださいっ!」 もちろん、2人は待たなかった。「無駄な抵抗は止めてくださいね」「ちょ、や、やめっ」 悲しいかな、サシカイアは非力だった。ニースはもちろん、それ以上に力持ちのフラウスにはなおさら敵わない。必死に脱出チェックを試みるのだが、これは筋力ボーナスを使う判定なので、非力なサシカイアでは本当に無駄な抵抗にしかならない。「はい、脱ぎ脱ぎしましょうね」「だ、だから、やめっ」「あら? 何ですか、この色気のない下着は」 おまけにこんな駄目出しまでしてくる。 中身男のサシカイアとしては、女の子女の子した下着の着用には躊躇いを覚えてしまう。その為に、一応女性用と言えなくもないが、男性用でも通用するんじゃ?、なんて言う微妙な感じのモノを選んで着用している。きっぱり男用にしないのは、それもまた何か違うような気がするという、微妙な、多分サシカイアにしかわからないであろう微妙なこだわりによるモノである。 そのあたりのサシカイアの微妙なこだわりは、残念ながらニースらには通じなかった。特に今の2人は、変なスイッチが入っている状態。第三者の制止がなければ、何処までも突き進んでしまいそう。そしてここには第三者はおらず。まるで、これが神に与えられた己の使命だとばかりに、容赦がない。「コレも着替えですね」「え?、ちょ、ホントに?」「さあ、脱いで、脱いで」「ちょ、それはヤバイって、本当にっ」「うふふふ、何か背徳的な喜びに目覚めそうです」「ら、らめぇええっ!」 サシカイアの悲しい叫びがノービス領主、ゲイロードの館に響いた。 八本の柱で支えられた巨大な広間。その中央には白い布を敷き詰めた食卓がいくつも並んでいる。 二十人を超える楽士が音楽を奏で、道化が即行劇を演じている。正装した執事やひらひら分の多い美形のメイドさん達──いわゆるパーラーメイドさん達が、飲み物や食べ物を、これでもかって位に運び込んでくる。「流石接客の為に厳選されたパーラーメイドさん、美女、美少女揃いだ」 と、それを見て感心するのがブラドノック。 パーラーメイドとはお客の取り次ぎ、客間での食卓の準備や給仕役のメイドのこと。その仕事の性質上、主人や客の前に出る機会が多いため、基本、容姿の整った者が選ばれるし、着用しているメイド服も、その容姿を更に高めるようなモノになる。具体的には、フリルやらレースやらを多用した、見た目可愛らしく美しいモノに。メイドの花形と言えば、このパーラーメイドである。 そんなメイドさん達が忙しく働く中、シュリヒテらはお客さんであるから、既に席に着いている。こちらはサシカイアのように否定的感情を抱く理由もなく、フォーマルな装いとなっている。──たとえばブルマパンツにラメ入りタイツであったりしたら強硬に反対しただろうが、幸い、そうではなかった。もちろん、その服装はゲイロードに借りたモノである。ギネスは自前のマイリーの神官衣を着ているが、聖職者であればコレが正式な装いなので問題ない。 問題となりそうなのは、ベルドの格好。こちらは、正装、何それ?、俺たちゃ裸がユニフォーム、とばかりに半裸に近いいつもの格好。例の得体の知れない獣の毛皮を纏ったまま。ベルドは蛮族の出であるから、コレが正式な格好と言えば、言えなくもないのであるが。 ゲイロードはベルドの格好を見て僅かに眉を顰めたものの、何も口にすることはなかった。いくらアラニア貴族、王族とはいえ、ベルドに物申すのは怖い、そんな感じだろうか。学校の先生だって、怖い不良には服飾違反の警告を何となく控えたりする物だし。 そのゲイロードに執事が耳打ち。途端、ゲイロードの顔が喜び一色に染め上げられる。「どうやら、今夜の主賓達の準備が整ったようです」 この言葉に、俺らはそうじゃないの?、と思った者もいたかも知れないが、すぐにその感情は消えた。「ニース様、ペペロンチャ様、フラウス様、ご入場です」 執事の先触れの声に続き、部屋に入ってきた2人の女性の美しさに、少々の不満など吹き飛んでしまう。ゲイロードを筆頭に感嘆の叫びが上がる。 豊かな黒髪を結い上げて、白いシンプルなドレスに身を包んだ美少女。髪の黒とドレスの白のコントラストが素晴らしい。大きなぱっちりした瞳は、夜空よりもなお深い色合い。小振りだがすっと通った鼻筋に、桜色の小さな唇。良くできたお人形さんのようにできすぎな容姿。その表情、雰囲気の静謐さで、メリハリのある体型の割に不埒な感情を抱かせない。「清楚」とタイトルの付いた至高の芸術作品。そんな美少女はニース。 このニースを見て、ゲイロード、ウォートが素直に感嘆の言葉を口にする。 もう1人は金髪の美少女。いつもは短くしている金髪にウィッグを付け足して、花飾りを付けている。宝石、エメラルドのごとき色合いの瞳には強い意志を感じさせ、少女に凛とした印象を与えている。着用したドレスは空色の、大きく肩を露出させたモノ。胸の谷間もばっちりで、普段のお堅い格好との大きな落差が、得も言われぬ色気となっている。こちらの美少女はフラウス。「……化けやがった」 フラウスを見て、大きな反応を見せたのはベルド。口元に酒杯を運ぶのを忘れてしまったように動きを止め、一言呟く。 2人はゆっくりとパーティ会場であるベヒモスの間に踏み込み。 直後に回れ右。 扉の向こうに引っ込むと、もう1人の両手を捕まえて引っ張り出してくる。「おおぉ」 と3人目を見て思わずといった具合に歓声を上げるのが3人。「へ?」 と顎を落っことしそうになったのが3人。 後者の3人は、シュリヒテ、ギネス、ブラドノック。 何しろ、3人目は、きっちりドレスに着替え、化粧までしたサシカイアだったのだから。「遂にそっち方面に転んだのか? あいつ?」「俺、転ぶかも知れない。転びそう。てか、転ぶ」「目を覚ませ。寝たら死ぬぞ」「そっちは行っちゃダメだよ」 ぼんやりと夢見るように呟いたブラドノックに、シュリヒテらが思いとどまるように必死で声を掛ける。ダメだ、そっちは奈落に通じるヤバイ場所だ。踏み込んだら最後、元の無垢な自分には戻れなくなるぞ。なんて声を掛けているが、それはブラドノックにと言うよりむしろ、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。 えっへんと言った具合、己の手柄を誇るみたいにして両者ともに豊満な胸を張るニースとフラウス。 その2人に左右を固められて立つ着飾ったサシカイアは、ちょっぴり目がうつろに見えるのがマイナスだが、それをさっ引いても十分に、十分以上に魅力的だった。 後頭部で編み上げた鮮やかな金髪。微妙に目尻が上がり気味の目元には、普段はないくっきりとしたアイライン。小さな唇にも、鮮やかな紅が挿してある。ほんの僅か。本当にごく僅かなお化粧が、また普段と違う印象を与えている。元々の天国的な美貌に、素晴らしいアクセント。そしてその身を包むのは、草色のドレス。割合ぴったりしたタイプのドレスなせいで、そのありえない程の腰の細さが際だっていた。胸や尻の肉付きは、ベルドの台詞ではないがエルフ故に当然薄いのだが、それを補って余りありそうな腰の細さ。それだけで体型に大きなメリハリがついている。「これは、3人とも素晴らしい」 歯が浮きそうな賞賛の言葉を臆することなく口に出来るのは、流石は百戦錬磨のアラニア貴族と言うべきか。ゲイロードがしきりに褒め称えながら席を立つと、エスコートしようと三人娘の方に向かっていく。 遅れてなるかと、慌てて続くシュリヒテら。大慌てで、ちょっと待ったコール。 それぞれが牽制しあい、無言の丁々発止の後、結局、ニースをゲイロードが、フラウスをベルドが、そしてサシカイアを漁夫の利か、ウォートがにらみ合う3人組を余所にエスコート。 こうして、歓迎の宴が本格的に始まった。 宴は、ゲイロードの独壇場となった。 ずっと俺のターンとばかりに、間断なく話を続けていく。その知識量、話術はたいした物であったが、残念なことに話の内容が芸術方面に偏っており、興味を持っているのがゲイロード1人だけという、悲しい状況になってしまっていた。これが、女体の芸術であれば、もう少し追随する人間も出てきたであろうが、三人の美少女の前、流石にそれは自重したようである。 結果、ゲイロードの話に応じるのは、ウォートただ1人。流石にセージレベル11。芸術への造詣も深く、時にゲイロードを唸らせたりもしていた。しかし、せっかくのご高説も、はっきり言って高度すぎ、他の人間にはちんぷんかんぷんな内容になってしまい、どん引き状態。最初から我関せずとばかりに酒杯を空け続けていたベルドに倣い、それぞれ飲み、食べる方に注力する。 それに漸く気が付いたゲイロードは、芸術談義についてはまた後日とウォートと約束して、今度はダンスにニースを、そしてサシカイアを誘いにかかった。フラウスは、ベルドが怖いらしい。それでも、ニースが気が乗らないと断り、サシカイアはうつろに笑うばかりで相手をしないとなると、勇気を出して誘いを掛ける。残念なことに、フラウスは毅然とした態度でその誘いを拒絶したのだが、ブラドノックやウォートあたりは、賢者であるばかりではなく、勇者でもあったのか、と感心しきりだった。 食事が終わり、ダンスをする者もいない。話も合わない。こうなってくると、流石のゲイロードも興醒めしたらしい。所用を思い出したと言って、皆さんは存分にお楽しみ下さいと言い残して退場してしまった。「やかましいのが、ようやくいなくなりましたね」 と、その背中を見送って、直後に酷いことを口にするのはフラウス。「手厳しいね、フラウスは」 ウォートが容赦のない言葉に苦笑する。「ああ見えて、あの方は偉大な賢者で、同時に勇者でもあるのだよ? おまけに芸術の守護者でもある。特に神々の芸術作品、神々の造形への理解の深さは、先に皆が知るとおりだ。確かに、魔神との戦いには役に立ちそうにはないが、もう少し、相応の尊敬を払うべきだよ」「……」 フラウスはその言葉に、何とも言えない顔で沈黙した。 BGM、歌劇は未だ続いていたが、楽士達はパトロンの退場で目に見えて手を抜き始めていた。単なる雑音、までは行かないにしろ、気の入っていない演奏など耳障りでしかない。しかし、不穏当な会話をするには、やかましさも役には立つ。先ほどのフラウスの言葉が、執事やメイドの耳に届かなかったように。「ここで一度、お互いの情報を交換したいのですが」 と、ニースが提案する。 これまで、そうした時間は持てなかった。宴前の休憩時間にやっておけば良かったのだが、別のことで時間を潰してしまった。しかし、後悔は欠片もしていないニースだったりする。むしろ、会心の仕事? 素材が良いのはもちろん知っていたが、ここまでの出来になるとは、ニースの想像の上を行った。「そうですね、確かに、情報は重要です」 と、ウォートの言葉が返ってきて、ニースはよそ事に逸れかけていた気を引き締め直す。「魔神将を倒されたとか?」 ニースは、無言で酒を飲み続けていたベルドに訊ねる。 この言葉に、ベルドは憮然とした顔になる。「世間では、そうなっているな」 面白くもなさそうに、ウォートを軽く睨みながらベルド。 それに僅かに苦笑しながら、代わってウォートが口を開く。「魔神将を倒したのは間違いありません。しかし、世間で知られているのとは、少し事情がね」 言葉を濁すウォートに、ニースはその、世間に知られていない事情を尋ねる。これから先も、ニースは間違いなく魔神と戦う。だから、魔神将の強さを含め、魔神についての可能な限りの情報を知っておきたい。シュリヒテやサシカイアからももちろん話は聞いてるが、情報源はたくさんあった方が良い。おまけに、この4人組の説明はモンスターレベルだの何だのと、聞き慣れない言葉が混じるのでわかりづらいのだ。「魔神将の本当の強さが伝われば、立ち上がる勇者は1人も──いえ、立ち上がる勇者は殆どいなくなってしまいます」 途中、シュリヒテらを見てウォートは言い直す。つまりは、そう言うレベルでなければ戦えない敵なのだとニースは再確認して、暗澹たる気持ちになる。「それこそ、ここのベルドや、そちらの光の剣くらいの人間しかいなくなってしまうでしょう。出来れば、ベルドが一騎打ちで倒したことにしておきたいのです」 この言葉にベルドは顔を顰め、面白くなさそうに酒杯を干した。ウォートの言いたいことは理解する。しかし、自分の手柄でないものを自分の手柄のように世間に広められることは面白くない。これではまるで道化のようだとでも、思っているのかも知れない。 それからいくつかのやりとり。マーファの教えに従い、これが自衛のための戦いと考えるニース。ニースは、魔神との戦いで命を落とす者達を痛ましいと考えている。その上で、彼らを勇者として称えよと言うウォート。そして、正義のためであれば戦う事はあたりまえ、正義の行使のためであれば命をかける事は当然であると考えるフラウス。それぞれの立ち位置、考え方の違いが明らかなになったりもしたが、3人ともにその目的が、ロードスよりの魔神の一掃と言うことで合意は得ることができた。 その上で、ウォートがニースに明かした魔神将ゲルダムとの戦いの顛末は、原作通りのモノであった。 一騎打ち擬きで魔神将ゲルダムを下したベルド。首をはねて勝ったと思った所で手痛い逆劇を喰らって腹に風穴を開けられ、それならばと文字通りの細切れになるまでバラバラにして、さあこれでもう大丈夫、と考えたら、今度もまた、大丈夫ではなかった。そんな状態からも魔神将ゲルダムは数日で復活してのけ、トロフィーとしてベルドが持ち帰った首を取り戻しにライデンへ。そして、たまたまベルドの部屋に1人で残っていたエルフ娘ルシーダを惨殺した。「それでも、死なないのですか?」 と、唖然とするニース。首をはね、更にハンバーグの材料にするしかない位にミンチにして、それでも復活してくる。こんな相手、殺しようがないのではないか?、どうやれば、そんな相手を倒せるのか?、と驚くニースだが、もちろんタネはある。 それは、禁呪〈ワード・パクト〉。魔神将ゲルダムは、この魔法により、剣に対する絶対的な加護を得ていたのだ。剣の攻撃であれば、どれだけ喰らおうと、それこそ、身体を細切れになるまで切り刻まれても、絶対に死なないという呪い。「それが呪いなのですか?」 祝福なのでは?、と首を傾げるニースだが、ウォートは首を振って、コレはやはり呪いだと告げる。 うまい話には裏がある。そんな感じで、この禁呪にももちろん巨大なデメリットが存在する。剣に対する絶対的な加護を得る。その一方で、剣以外の攻撃には極端に弱くなってしまうのだ。たとえば、鈍器でこづいてやれば、あっさりと死んでしまう、と言った具合に。うまく条件が合えば絶大な効果だが、外れた場合のリスクが大きすぎるのだ。 その後、魔神将ゲルダムはフラウスのメイスの一撃で屠られている。 しかし、その一撃を叩き込む為に、ウォートら3人は多大なる苦労をすることになった。実は魔神将を倒せていませんでした、なんて事が知れ渡れば、ウォートの目論見は水泡と帰す。であるから、秘密裏に、迅速に退治しなければならない。再度の戦いではウォートも本気を出した。賢者の学園においてはその存在すら秘匿されている、古代語魔法最強の攻撃呪文、隕石召喚〈メテオ・ストライク〉すら使っている。もちろん、ベルドも間違いなく本気であったし、フラウスもそう。それでようやくの、薄氷の勝利。何かの、ほんのささやかなアクシデントでもあれば、簡単に勝者と敗者はひっくり返っていただろう。「魔神将とは、そう言う存在なのです」 ウォートがそう話を締めくくる。 ニースは、絶句して言葉を返せなかった。 それが。そんな化け物が魔神将。困ったことに、このレベルの敵が確実に一体、おそらくはその他にもまだ数体存在しており、さらにその背後には、魔神将すら膝下におく魔神王が控えている。思わず絶望に目の前が暗くなりそうな、酷い現実だ。「お話下さいまして、ありがとうございました」 それでも、目を閉ざして逃避をしても、何にもならないことをニースは知っている。たとえ相手がどれほど強大であろうとも、戦うしかないのだ。そう決意するニースだが、僅かに声が震えるのを、堪えきれなかった。「さて、次はこちらが、そちらの話を聞かせて貰いたいですね」 と、今度はウォートらの側から、質問が飛んでくる。「私は、魔神将との戦いには参加しておりませんので、そちらはサシカイアやシュリヒテに」「サシカイア?」 と、ウォートが首を傾げる。ペペロンチャ、では?、と言う視線を受けて、ニースは言った。「この馬鹿の、ペペロンチャの本当の名前です」「ペペロンチャというのは偽名なのですか?」 何故、そんな偽名を?、とウォート。「……魔神将に名を尋ねられ、本名を名乗るなんて危険な真似が出来るか、と。後、勇者だ英雄だと祭り上げられるのも鬱陶しいし、頼られても困る。やばかったら、俺は逃げるから──と言うことらしいです」 ちょっぴり恥ずかしそうに、ニースが答える。こんなのが、アラニア北部を中心に、信仰に近い支持を集める英雄の、戦乙女の正体だと言うのは、私もあまりにあんまりだと思います。と口にはしないが、表情で告げる。「嘘を付いたのですか?」 素早く反応したのはフラウス。ファリスの教義では、嘘は悪である。そして、悪即斬もまた、ファリスの教義。流石に斬はなくとも、とりあえずヴァリスのファリス本神殿へ連行して、地下の精神鍛錬コースへ叩き込むべきでは?、なんて物騒な視線でサシカイアを睨み付ける。エルフには信仰という概念が存在しない。だが、その機会に徹底的にファリスの教えを叩き込み、あるいはファリスを信仰するエルフ、なんて存在を作り出すことが出来れば、ファリスの宗教史に金文字で刻み込まれる快挙となるだろうし。「そいつはいい」 一方で、これまで面白くもなさそうな顔で酒を飲んでいたベルドの方にはうけたらしい。肩を揺らして笑っている。「ベルドっ!」 どうしてこんな不謹慎なことを面白そうに笑うのですか、とフラウスが怒りの声を上げるが、ベルドは気にしない。「みんながみんな、ファリス信者じゃないんだ。1人2人はこういう面白い奴がいてもよかろう。世界中の全ての人間がファリス信者だったら、きっと俺は息が詰まる。……まあ、逆にこいつみたいな奴ばっかりでも、それはそれで困るだろうがな」「そればっかりは、やめてください」 ニースがロードス住人全部サシカイア、みたいな状況を想像し、身震いして拒否する。そうなれば、毎日毎日突っ込みを気の休まる暇もなく続けることになってしまう。それは絶対に勘弁と言うところか。「まあ、偽名の善し悪しについては、私は論評を避けさせて貰うよ」 ウォートはとりあえずそんなことよりも重要なことがあると、それかけた話を元に戻しにかかる。「さて、話を聞きたいんだが……ん?、光剣はどこへ?」「え?」と、ニースが見れば、シュリヒテの席はいつの間にか空になっている。どころか、ブラドノック、ギネスの姿も見えない。「一体何処へ?」 と、首を傾げるニース。 疑問に答えてくれたのは、ベルドだった。「あいつらはメイドと意気投合して、連れだって出て行ったぞ」「……」 何で私の仲間はそういう人ばかりなのでしょうか。って言うか、つい先日似たようなハニートラップで騙されたばかりなのに、反省は無しですか? 私何か悪い事しましたか、マーファ様。なんて、己の立ち位置に疑問を抱いてしまったらしいニース。 対して、ベルドは再び面白そうに笑ってフラウスに怒られている。「いやはや」 ウォートも困ったモノだと苦笑して、サシカイアに視線を向けた。魔神将との戦いの顛末について聞くのであれば、こちらでも構わない。いや、むしろ、直接斬り合っていた光の剣よりも、後ろで戦場をコントロールしていたと聞く戦乙女の方が、視野を広く取れ、色々見えていたかも知れないと、己を励ますように考える。何だか、口から魂が零れ掛けているようなサシカイアのうつろな表情が、不安を煽るが。「それでは、戦乙女の方に話を聞かせて貰うとしましょうか。さて、って、聞いていますか?」「サシカイア、真面目に答えないと、また──しますよ」「ら、らめえぇ!」 ニースがぼそりと耳元で呟くと、サシカイアは声を上げて再起動する。「ごごごごごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」 がたがた震えて謝るサシカイアに、何をしたんですか?、とおそるおそる尋ねるウォートの視線に、ニースとフラウスはそれぞれ明後日と一昨日の方向にそっぽを向く。「何にせよ、コレでは、話が出来ないのですが」「大丈夫です、ほら、静心〈サニティ〉」 ニースの神聖魔法、心の平静さを取り戻させる効果を持つ、を受けて、サシカイアが強制的に落ち着きを取り戻す。「……あれ?」 と首を傾げるサシカイアに考える余裕を与えるなとばかりに、ニースがウォートに質問をするように視線で促す。「それではいくつか質問をさせて貰います。まずは──」 ろくでもない展開が続いたせいか、ウォートも自分の中で纏めていた質問内容を、一時的に失念したらしい。何から尋ねるべきかと首を傾げ、まずは考えを纏める時間稼ぎにコレを、と口にする。「そう言えば、ハイエルフの協力は、どの程度当てに出来るのでしょうか?」「ハイエルフ?」 サシカイアは首を傾げた。「何でいきなりハイエルフが出てくるんだ?」「何でって、あなたはハイエルフでしょう?」「え?」 とウォートの言葉に、サシカイアは驚きの表情になった。「俺って本当にハイエルフだったのか。──って、あっ」 そして、己の失言に気が付いたときには、既に遅かった。 ウォート達からサシカイアに、うろんなモノを見る視線が向けられていた。

Mozart!製作発表その2~つづきです。<モーツァルト!製作発表~つづきです>*速記者なみに書きなぐったメモを基に起こしているので、細かい間違い等あるかもしれませんので、ご理解ください。プリンシパル7人の短めのご挨拶を終えたところで、M!の演出家、小池修一郎さんがビデオレターでご挨拶。右上の大スクリーンに顔が映し出されます。〔小池氏の要旨と思われること〕2002年、2005年に続き再再演になるわけですが、(ここで、祐さんと涼風さんがでかいスクリーンの特大の小池氏の顔を仰ぎ見ながら楽しそうに笑う)ヴォルフと才能の分身、化身であるアマデとは共に行動しながらもついには決裂していくわけで・・(作品の魅力について語りはつづく)恋愛経験なども経て(意味ありげに)大人になったヴォルフや相変わらず衰えぬ声のコロレド(祐さんの表情→ポーカーフェイスを保つが内心は?)、もとアイドルだったhiroのコンスは表現力を増し、別の作品で才能を感じた。とても自然で周りとの調和が優れている。コンス像を前向きに明るく作り出している、などなど。そして、涼風さんのあたらしい男爵夫人は、女優としての進化がみられる、などなど。一生懸命話している小池氏をよそに、ひそひそ、ごにょごにょと内緒話に励む山口と涼風。さすがに8分は長いのか、みなさん無表情気味?<司会者の女性からプリンシパルへの質問コーナー>Q:まずふたりのヴォルフの意気込みをお聞きしたい。A(井上):(まず独り言風に)「プライベートについて語った覚えがないのに、どうしてわかったのだろう?」(←と話す井上くんのアップを見つめる祐一郎)「そのときで自分は大きく違う、素直にヴォルフにぶつけたい。ヴォルフはそのときの自分の思いが反映されやすい役なので」A(中川):(困ったように)「えーと・・質問なんでしたっけ??」←とボケる(本気のようす)アッキーを微笑ましく見つめる祐おじちゃん。「ボクは初演では19歳。大阪で20歳の誕生日を迎えて祝ってもらったことは忘れられない。あれから5年の月日が経った。音楽家そして俳優として大きな経験できたことはいいことだ。自分の基本は変わっていない。でも今年は25歳。大人の男の雰囲気もだせたらいいと思う。M!というのは無垢な人。子供と大人の顔と両方をもって生きたい。」Q:今回から初参加のキャストの方へ、役を演じる上の抱負は?A(涼風):(目をくるっとさせながら)「とにかく頑張るのみ。今やってるイーストウィックとは正反対の落ち着いた役で、小池さんの望みの男爵夫人のイメージにどうすれば近付けるか、いま作っている段階です。わたしなりの男爵夫人をみていただけたらと思う。」Q:hiroさんに聴きたい。この役で舞台デビューの感想は?A(hiro):稽古中でまだ混乱気味。でも素晴らしい作品なのでほんとに嬉しい。全力をだしてがんばりたい。Q:高橋由美子さんへ。今回力を入れているとことは?A(高橋):(スクリーンの自分をみて驚くように)「あ、こんなに大きく写ってる!」←その声にすばやく反応しカラダを傾けてスクリーンを見あげる祐一郎。「ナンネールがこんなに難しい役だとは!でも慣れ親しんだみんなと作り上げる喜びは大きい。気持ちはまだ一杯。もうすこししたらお客さんのことや質のことも考えていけそう」Q:香寿さんへ。今までと取り組み方の違いはあるか?A(香寿):「いつも新鮮な気持ちを大切にしてる。前回は毎日、今日も歌えるかなと心配だった。今回は落ち着きたいけれど、待ち時間についどきどきする。舞台の怖さが分かってきたというのは成長した印かも。ちょっと成長した男爵夫人を演じたい」そして!Q:山口さんにお聞きします。ミュージカルの帝王と言われていますが、その美声を保つ秘訣は?A(ザ・帝王!山口):「え~?そんな急にね~(困ったふり)」(スクリーンを見上げて独り言のように)「小池さんをこうやって仰ぎ見ることってあんまりなかったけど、こんな鼻の穴の形なんだ~?って確認したりしてます」(笑?)「5年経って変わったという話だったけど、5年経ってもおじさんの所にはな~んの変化もないというのは、いったいどういうことだ?」(何故か嬉しそう?)「久々にみんながパワフルに自信もってお稽古しているのをみると、おじいさんもこういう人たちと一緒にできて幸せだな、こういう人たちに引っ張ってもらって舞台に立てて、幸せだな、と思う」(茶目っけたっぷりでした)<マスコミによる質疑>Q:モーツァルト!の素敵なナンバーを歌う喜びと大変さは?A(井上):久々なのでヴォルフの歌の多さにびっくり。やりきる体力が不安になるけどいろいろな感情を歌えて喜びを感じる。井上ひさし氏の芝居を通じて、芝居の楽しさがわかってきた。その気持ちのままやりたいが、ミュージカルとしての難しさをあらためて感じる。A(中川):天才ヴォルフとしての歌は普通の歌とは違う。ミュージカルの醍醐味は役を通して人生の感情の表現ができることと、音楽が常に流れていること。「影を逃れて」は鳥肌がたつ曲。みんなの声がヴォルフにつきささり、ヴォルフ自身をとおして思いを客席に届ける。自分の敵は自分の中にいるというメッセージを放つ。19歳、22歳、25歳といつ歌ってもこの曲の気持ちは自分のなかにつねにある。Q:ふたりのヴォルフへ。hiroの印象は?A(井上):「若い奥さんをもらって嬉しい。彼女は力が入りすぎず自然に演じている。とても初めてとは信じがたい。一緒に稽古して楽しい」(←これを聴きながら頭の後ろに手をもっていって一瞬にやける祐一郎)A(中川):「彼女とはだいぶ昔に会ったことが・・ぼくのCDをもっててくれた」(遠い目)(言葉につまる)(会場からすこし笑いが)「初めて歌稽古のとき、初めて目を合わせて『愛していればわかりあえる』をとくに言葉のやりとりを経ないで歌ったみた。こういう形がベストだったのかも。(ちょっと上目遣いになる祐一郎)Q:hiroさんはどうですか?A(hiro):「緊張して覚えてない。ふたりはまったく違うな。ふたりに結構頼ってます。聞き入らないように気をつけてます」<オーディエンスからの質疑>Q:主演のふたりに聴きたい。最後自殺するけれど、死に向かって生きる役ですが、ヴォルフトして生きること死ぬことにどんな気持ちをもって演じているか」A(井上):人はみな死に向かって生きている。あまりいい人生、悪い人生と決めつけないようにしている。最後に死に直面した自分がどう感じるか、死とはどんななのか、考えたりする。A(中川):天才とは理解されないもの。「影を逃れて」で表現されているように敵は自分の中にいる。19歳の自分に戻れる期待があり、テーマが重いほどエクスタシーを感じれられる。祐一郎さんは遠くてどこみてるか分からない感じだったけれど、時折明るくなったときに全体をふーわりと見渡してくれたりするしぐさがなんとなく嬉しかったです。2:45、さて、ここでモーツァルト!ナンバー3曲の披露の準備でいったんキャストは下手にはける。

さてシュリヒテは魔神と戦う決意を固めたわけだが。 サシカイアは未だに魔神と戦う気になったわけではない。原作ロードス島伝説の魔神戦争では6英雄、即ち6人しか生き残らなかった。それを知っているから、シュリヒテがそうするならば付き合おう、なんて気楽に考えることは出来ない。特に、魔神将の強さを目の当たりにした今、自分だけは特別に生き残る、なんて楽観的にはなれない。10レベルのチートキャラ、自分のことをそう認識しているサシカイアだが、その程度、20レベルの魔神王を筆頭にして10レベルオーバーの魔神がごろごろ出てくる魔神戦争では、絶対に生き残れるという保証になどならないのだから。 さらに、他に生きる道も見つかったことも理由の一つ。高レベル女シャーマンであるサシカイアは、命の精霊関連の魔法を駆使すれば、優秀なヒーラーになれるのだ。女、と言う部分に引っかかりを覚えはするが、難民キャンプの人間何人かの治療をして、これは商売に出来るとの確信も抱いたばかりであるし。開業資金は今のところ無いが、流しで適当に稼ぎつつ、ゆっくり貯めていけばいい。少なくとも、冒険者なんてやくざな商売を選択して、魔神、魔物を相手に殺し合いなんぞしながら暮らしていくよりも、よっぽど真っ当な道を歩いていける。やっぱり人間、地味でも堅実な生活が一番だ。「──つー訳で、俺らどうする?」 考えは似たり寄ったりだろうと、シュリヒテを除いた2人の仲間、ブラドノック、ギネスと一緒にターバ村の宿屋で昼飯を取りながら、相談を持ちかける。 食事時を微妙に外しているのだが、宿屋一階の酒場兼食堂は結構な人がいる。ターバ村は避難民によって人口過密気味なのだ。 さて、サシカイアが取るべき態度で一番簡単なのは、見捨ててしまうこと。 シュリヒテが魔神と戦うと言うのであれば、戦えばいい。だけど、こちらはこちらの道を行く。死ぬことがわかっている選択肢を選ばないからと言って、非難される謂われはない。 ──と、あっさり割り切ってしまえないのが、困った話で。「難しいよなあ。説得が効くようにも思えないし」 ブラドノックも腕組みして難しい顔になる。 今、シュリヒテはマーファ神殿で、神官戦士連中と一緒に鍛錬をしている。そこには、鬼気迫るものがあった。ほとんど人の限界である10レベルファイター、それを更に越えようとばかりに、己の身体を痛めつけている。その様は、サシカイアらの説得に耳を貸すようにも思えない。最悪、1人でも戦い続ける、そう答えるに決まっている。「何が難しいのさ」 ところが、ギネスはあっさりと言い捨てた。 何かいいアイデアがあるのか、と顔を向ける2人に、ギネスは簡単に言ってのけた。「僕たちも魔神と戦えばいいじゃない。て言うか、戦わなくちゃ。必要な、目の前にある正当な戦いから目を背け、逃げ出すのはマイリー様的にダメダメだよ。戦って戦って戦って、力及ばなかったらマイリー様の喜びの野に行くだけの話でしょ?」 こいつ、とサシカイアはまじまじとギネスの顔を見直した。 アレは一時の気の迷い。テンパってテンパってテンパリマくった所へ神の声なんぞ聞いてしまったために、一時的にハイになってしまった。しかし時をおいて落ち着けば生来のへたれな性格に戻る。そんな風に考えていたのだが、どうやら想像以上に根が深い。甘く見ていた。勘違いは未だに継続中。ぐるぐるした宗教家特有の熱い瞳には、迷いなんて欠片も存在しなかった。こいつ、本気で言っている。 ブラドノックと視線を合わせる。こちらも困惑の表情。 処置無し。 互いの瞳には、同じ文字が書かれていた。「俺たちはどうする?」 仕方がないので、身の振り方はブラドノックと2人で相談しよう。 そう考えたサシカイアに、ギネスが口を挟んでくる。「2人とも、戦いに参加する。決まってるじゃないか。特に、サシカイアは絶対に」「何で俺は絶対なんだよ。勝手に決めるなよ」 文句を言うが、ギネスは何処吹く風。そして、決定的な言葉を口にした。「だって、サシカイアはマイリー様の啓示を受けた、僕の勇者様なんだから」「……はいぃ?」 サシカイアの声は裏返ってしまったが、それは致し方ないことだろう。 ロードス島電鉄29 ああ、勇者さま「ものすごく格好良く僕が復活したあの時、マイリー様の声を聞いたって言ったよね。その時、同時に啓示も受けていたんだ。汝の勇者はサシカイアであると。これから先、己の勇者であるサシカイアを助け、導き、魔神と戦うべし、って」 ギネスは頬を紅潮させ、無駄に熱意の溢れまくっているぐるぐるした狂信者的な瞳で、口から唾を飛ばして熱弁する。「自分の勇者を、マイリー様の啓示を受けて手に入れる。これは、マイリー神官としては素晴らしい誉れだよ。だから、サシカイアには、絶対に戦って戦って戦って、死んでマイリー様の喜びの野に行って貰うんだ」「死ぬの確定かよっ!」 ぶっちゃけヒットポイントに不安があるだけに笑い話で済まない。思わず裏拳で突っ込みを入れるサシカイアだが、ずんぐりむっくりで重心の安定したドワーフ相手である。非力なエルフの一撃ではびくともしない。「……何で今更、そんなことを?」 と、ここでブラドノックの疑問。確かに、あの戦い以来、時が経っている。何故今更。真っ当な疑問だ。「色々ごたごた、立て込んでたからねえ。とりあえず、シューの件が一応の決着を見るまでは、様子をみといた方がいいかな、って考えたんだ。この勇者に対する僕の気遣い、素敵だね。従者の鑑だと思わない?」「おもわねえよ」 逆に一撃入れた自分の手が痛くなってしまい、涙目でふーふーしながらサシカイアは一言で切り捨てる。「てか、人の生きる道を勝手に決めるな」「決めるよ。だって、これは確定事項なんだから」 ギネスは聞く耳持たない。身体を机の上に乗り出すようにして、熱弁を振るう。信者にとって神の声は絶対かも知れないが、巻き込まれるサシカイアには非常に迷惑な話だ。本当に勘弁して欲しい。「大丈夫、僕自身も、サシカイアに勇者の資質を感じているから。不本意ですぅ、なんて言わないから安心してくれていいよ。ぶっちゃけ、筋肉オーガ、むさいムキムキ男よりも、見た目だけでも可憐な容姿の女の子の従者の方が、色々美味しそうだし」 何処に安心材料があるのやら。おまけに、不本意です不本意です言われても、金髪美人のマイリー神官の方まだましだ。何しろギネスは髭を生やしたむさいドワーフなのだ。そばにいて貰って嬉しいヴィジュアルじゃない。……あくまで比較対象として、「まだまし」だが。どちらにせよ、戦いを避けたいサシカイアからしたら、ウォーモンガーなマイリー神官の勇者認定なんぞ、遠慮したいというのが基本。そんなことを考えながら、サシカイアは突っ込みどころを口にする。「美味しいって何だよ!」「もちろん、今のままのサシカイアじゃあ、ダメだよ。何より腹黒いし、性格も悪いから」 と、ギネスはサシカイアの言葉をスルーして、失礼なことを平気な顔で告げてくる。「うん、資質はあっても、未だ何者でもない人物を導いて、何処に出しても恥ずかしくない立派な勇者に育て上げる。マイリー神官として、これほどやりがいのある使命はないよ。特に、今は魔神戦争の真っ最中。名をあげ、勇者となる為に必要な試練には事欠かない。全く、マイリー様のお考えは素敵すぎるよ」「ちっとも素敵じゃねえ!」「──と言うわけで、とりあえずサシカイア、マイリーの信者になってみない?」 今度は勧誘かよ、とサシカイアは、遠慮無く盛大に顔をしかめる。その顔は当然ギネスに見えている。見えているというのに、ギネスはまるで見えてない顔をしている。都合の悪い部分は簡単に見ないふり、聞こえないふりしてしまえるらしい。この厚顔さ、以前のギネスにはなかったモノだ。本当に色々と変わってしまったらしい。「ならねえよ。てか、俺エルフだからSWのルールではプリースト技能手に入れられ無いんだよ」 以前のギネスはもういない。それに一抹の寂しさ──は特に感じず、サシカイアはあっち行けと言った具合にひらひら手を振って応じる。「信仰ってのはそう言うモノじゃないよ。技能技能ってせこいことは言わないでいいよ。勇者としての器が知れちゃうでしょ」 要は心の持ちようなんだから、と、ギネス。「それに今なら、サービスとして洗剤も付けちゃう」「何処の新聞の勧誘だよ!」 突っ込みどころありすぎる、と声を上げるサシカイアだが、ギネスはやっぱり、あたりまえにスルー。「まずは3ヶ月。3ヶ月だけでどう? ダメなら1ヶ月でも。今時、宗教信じていないなんてダメだよ。そんなのが許されるのは小学生までだよね」 キモーイとか言い出しそうな口調で、ギネスが勧誘を続ける。「喜びの声だってたくさん届いているんだよ。ほら、『僕はマイリー神を信仰した結果、貧弱な自分にさよならして、女の子にモテモテになりました』、とか、『マイリー様のお導きで、身長が5センチ伸びました』、とか。見てよ、この素晴らしい御利益の数々」 どこからともなく羊皮紙を取り出して、べらべらべら~っと奇跡の事例を読み上げていく。 はっきり言って、ものすごくうさんくさい。サシカイアは思わず指先を唾で濡らして眉をなでてしまう。「モテモテ?」 のだが、その言葉にブラドノックが反応する。腰を浮かしてテーブルの上に身を乗り出す。「騙されるな」「……いや、しかし」 ブラドノックは多少、いや、かなり惹かれているらしい。こんなんで騙されるなよ。馬鹿かお前。と言うサシカイアの視線に、ブラドノックは悲しげな顔になった。「だってなあ。俺、本当にもてないんだよ。さっぱりもてないんだよ。いや、贅沢言わないから。女の子と仲良くできるだけでもいいんだよ」 それは、心からの思いの発露。思わず、そこまで言うなら仕方がないか、と納得してしまいそうな程の思いのこもった声だった。「シューの野郎なんざ、あんな事があったばっかりだって言うのに、例の世話してくれた神官見習いの女の子といい雰囲気になっているんだぜ。だと言うのに俺は……俺は……」「な、なんだってー!」 思わずサシカイアは大声を出してしまう。宿屋の他の人からの視線を集めてしまい、軽く頭を下げると、声を押さえて事実確認。「本当なのか?」「本当だよ」 と言うブラドノックの声は悲しみにまみれていた。「落ち込んでいたシュリヒテを見てられないって感じで、なんかやたらとかいがいしく世話やいてるし。流石に昨日の今日ですぐにどうにかなるってのはないだろうけど。──くそう、何で俺は魔法使いなんて選んでしまったんだ。こっちなんて、やたらと忌み嫌われているみたいだし。何故だ? 女湯や女子更衣室のそばを歩いているだけで、すごい嫌そうな目で見られるんだぞ!」 いや、男が女湯や女子更衣室のそばを彷徨いていたら嫌な目で見られるのは仕方がないだろう。そんなことを本気で口に出来るあたり、もてるもてないはきっと、魔法使い云々以前の問題だ。そう指摘してやろうとするサシカイアより先に。「それなら、このマイリー様特製の「幸せを呼ぶ多宝塔」なんてどうかな? これを持つと、運気が変わって、明日からきっとモテモテになるよ。本当は信者限定の商品なんだけど、僕とブラの仲だから特別に、今ならもうワンセット付けて、特別ご奉仕価格で提供するよ?」「買った!」 どこからともなく安っぽい置物を取り出すギネスにブラドノックが即答する。「買うな!」 サシカイアは財布を取り出そうとするブラドノックに慌ててストップをかける。「仲間内でそう言う怪しい商売をするな」「怪しいとは心外だね。ちゃんとメイド・イン・マイリーの刻印も入った純正品だよ? マーモあたりで作られているパチもんとは違うんだよ」「……なんて商売しているんだ、マイリー」 サシカイアは頭を抱える。ますます、ロードスの宗教全般を信じることができなくなりそうだ。いや、既に出来ない。「それはともかく」 と、ギネスがどこか明後日の方向へ進み始めた会話の軌道修正。「サシカイアには魔神と戦って貰わないと、僕が困るんだよ。だから、僕を助けると思って」「……勘弁してくれ」 拝んでくるギネスに辟易して、サシカイアは心底、頭を抱え。そこで天啓を受ける。にやりと笑って口を開く。「いや、考えてみれば、俺はギネスの希望に添うことは出来ない」「なんでさ」「なぜなら、そもそも俺はサシカイアじゃなくて、ペペロンチャだからだ」 ほら、魔神将にもそう名乗ったし。サシカイアって誰?、ととぼける。 内心ではなんて素敵な切り返しだろうかと自画自賛するサシカイア。しかしこれは考えの浅すぎる、大失敗だった。「ペペロンチャ様?」 そこで突然脇から聞こえてきた驚きの声は、仲間ではなく第三者──4人目のモノだった。「え?」 と、視線をそちら向ければ、きらきらした瞳でこちらを見つめる娘が1人。この酒場のウエイトレス娘で、ちょうどブラドノック注文の、レアな焼き鳥を運んできたところ。「すごい、本物の戦乙女ペペロンチャ様ですか? うわ、すごい。きれ~。やっぱり噂通り、すごく綺麗なエルフさんなんだ」 お盆を胸に抱き、あこがれの視線をサシカイアに向けながらきゃーきゃーとミーハーに声を上げるウェイトレス娘。その声は酒場中に響き渡り、各所で「アレが噂の戦乙女ペペロンチャか?」、「話半分で聞いてたけど、本当にすげえ美少女だ」、「………可憐だ」、「嫁に欲しい」とか何とか、一部不穏当な囁きが聞こえてくる。「きゃー、すごい。これでうちもワールドワイドな宿屋? 握手してくださいっ!」「あ? ああ」 勢いに押されて、何となく握手。 ウェイトレス娘は勢いよくぶんぶんと握手した手を上下に振る。何だかすごく嬉しそうで、今更嘘です、ペペロンチャなんて知りません、とは言えない雰囲気である。「ふっ、そして、この俺がペペロンチャ・パーティの知恵袋、賢者ブラドノック」「僕がペペロンチャの従者、マイリー神官の超絶ダイナミック・ブリリアント・ギネス2」 ウェイトレス娘はミドルティーンの可愛らしい娘だったので、ブラドノックとギネスもさりげなく髪の毛を掻き上げたりなんぞしながら、早速自分の売り込みを始める。 が。「あの、シュリヒテ様は?」 ウェイトレス娘はすげなくスルー。きょろきょろと視線を彷徨わせながら、尋ねてくる。「あ? あいつは今、神殿で訓練中」「そうなんですか?」 と、残念そうにウェイトレス娘は肩を落とし。それから、上目使いにサシカイアを見つめてお盆で顔下半分を隠し、聞きにくそうに、それでもしっかりと質問してきた。「あの、ペペロンチャ様とシュリヒテ様が恋仲だという噂は……」「ぶっ」 この時サシカイアが口の中に物を入れて無くて幸いだった。入れていたら、ウェイトレス娘めがけて吹き付けていたところ。「無い、絶対にそれは無い!」 あってたまるか、とサシカイアは可能な限りの早さで勢いよく左右に首を振る。「あ、そうなんですか」 ぱ~~、と顔を輝かせて、ウェイトレス娘が頷く。私にもチャンスが?、なんて小声で呟いているのが聞こえた。 周りの男連中が上げる、「ペペロンチャは独り身なのか?」、「だとしたら俺の嫁に」、「ペペロンチャは俺の嫁」、「屋上、前歯」とか聞こえてくる声は、精神衛生上、聞こえないことにする。 自分の掘った墓穴に呆然とするサシカイア。先刻のアレは天啓ではなく悪魔の囁きだったのだと悟るが、既に遅い。進退窮まった気分で視線を彷徨わせる。 そこへ救いの手がさしのべられる。「おい、仕事しろ」 それは、宿屋の親父のモノ。「え~、だってお父さん」 とぶーたれながら、それでもウェイトレス娘は引き下がる。「済みませんね。しつけのなってない娘で」 と言いながら、どん、と、親父はテーブルにエールのジョッキをのせる。「うちのおごりです。ぐっとやって下さい」「ああ、ありがとう」 やたらテンションの高いウェイトレス娘から解放されたことに安堵し、ほとんど反射的にお礼を言って、サシカイアはありがたく戴くことにする。「それで、一つお願いがあるんですが……」 ジョッキを傾けるサシカイアに向けて、親父が色紙とサインペン(嘘、羊皮紙と羽ペン)を取り出した。「サインを戴けませんか? いや、うちに有名人が来たときにはサインを貰ってましてね。ああやって飾るのが──」と言いながら親父が酒場の壁の一角を指さす。 そこには、ずらりと並んだサインの数々。ニースはもちろん、ドワーフは石の王ボイルとか、賢者の学院長ラルカスとか、様々なロードス有名人のサインが並んでいる。──が、思わずサシカイアは「嘘だっ!」と見開きで叫びそうになった。アラニア建国王カドモスⅠ世とか、エルベク王国エルベク王とか、そのエルベク王国を打倒したヴァリス建国王アスナームとか、一体何百年前の人物だ? 帰らずの森はハイエルフの族長ルマースとかも非常に怪しい。引きこもりのハイエルフ一族、その大親分がわざわざこんな所まで出てくるとは思えないし。シーフ技能で真偽判定、宝物判定するまでもなくわかる。きっと半分以上、いや、9割方が偽物だ。 それでも、是非に、と言う親父のすがるような目に促され、どうでもいいや、と言う捨て鉢な気分でサシカイアは羽ペンを取る。さらさらさら~っといい加減な手つきで、ペペロンチャ、とサイン。「これで、いいのか?」 と言いかけて。 親父の後ろにずらりと並んだ男連中を見て、サシカイアは絶句した。「あの、俺にもお願いします」「私にもお願いします。あ、ギブソンさん江、ってお願いします」「俺にも。あ、サインはこの枠の中へ」「てめえ、それよく見たら婚姻届じゃないか!」「あの、ここのところにぶちゅ~っとキスマークを」 期待に満ちた男どもの顔に、サシカイアは口元を引きつらせ、死んだ鯖みたいな目でペンを取った。 ……ブラドノックとギネスはその間、ウェイトレス娘に無視されたことにうなだれ、テーブルにのの字を書いていた。

なんだかおどろおどろしくも聞こえるドラの音をバックに、宿屋の扉を吹っ飛すような勢いで開け、息を荒げた男が一人、転がり込んでくる。 そして、息が整うのも待たず、大声で叫んだ。「助けてください。化け物が……たくさんの魔神が……お願いです、助けてください」 その言葉を主に向けられた4人組の冒険者は── 男の期待や予想とは違い、顔色を変えて盛大に狼狽えた。 ロードス島電鉄04 僕たちには勇気が足りない 村人らしき男が飛び込んできたのは、ちょうどサシカイアらの未来設計図が大まかに定まったところだった。 他に能がないこともあり、当面は冒険者として身を立てる。ただしリスクは抑えめに。出来うる限り簡単な依頼のみを受けることとする。昨今ロードスで大流行なのは魔神であるが、それはスルー。だってあいつら強いしうざい特殊能力持ってたりするから勘弁だ。出来れば初心者の友、ゴブリン退治あたりで行きたい。コボルドでも可。そしてある程度金を貯めたら、ロードスを逃げ出してアレクラストに渡ることも考える。 そんな情けない結論は、宿屋に駆け込んできた村人によって出した直後に駄目出しされた。「魔神の襲撃?」 酔いなんて一瞬で引いた。 魔神とは戦わないように生きていこうと、意見がまとまったばかりなのにこの展開。酷すぎる。 泡を食って立ち上がったギネスの背後で、椅子が倒れる音がする。顔面蒼白、話が違うと狼狽えるギネスを笑える者はいない。 自分では見えないが、サシカイアだって同じような顔色、表情をしているに違いない。そう言う自覚があった。 なんてこった、神様。そりゃ無いよ。 と、欠片も信じていない神様に内心で毒づく。「ど、どどどどどうするのさ」「う…うろたえるんじゃあないッ! ドイツ軍人はうろたえないッ!」 狼狽えるギネスを窘めるシュリヒテの声も冷静とは言い難く、甲高く上擦っている。てか、ドイツ軍人て何さ。「まずはとにかく、装備と荷物っ!」 建設的な意見はブラドノックから。こいつも顔面蒼白だが、比較すれば一番ましか? いやダメだ。何の意味があって、焼き鳥の食い残しを集めてポッケに入れようとしているんだ? それでも、その意見は一応まともだ。 宿屋の、村の中は安全地帯だと早合点して、4人は完璧にくつろいでいたのだ。さすがに武器こそ近場に置いていたが、鎧なんかは脱いで楽な格好になっていた。荷物も部屋に置いてある。何をするにせよ、そのあたりを整えるのが先決、と同意。尻を蹴飛ばす勢いで我先にと階段を駆け上って二階の部屋に向かう。「くそ、くそ、くそ、何でこうなる」 話が違う。こんな風に初の戦いを迎えるなんて想定外。サシカイアは罵りの声を上げながら己の部屋に飛び込むと、大慌てで装備を調えていく。防具は上着を羽織るだけで事足りた。──筋力低い上にシャーマンでシーフだから、重厚な鎧はそもそも身につけられない。ちょっとばかり丈夫な服、その程度の装備なのだ。それから、腰にいくつかのポーチのついたベルトを付ける。それぞれのポーチには鍵の束や油の入った小瓶などのシーフのいわゆる7つ道具、魔法使用の際の精神力の肩代わりをしてくれる魔晶石、各種の薬品、地図や方位磁石、幾ばくかの貨幣、そして宝石、筆記用具にメモ用の羊皮紙などの小物を中心に戦闘・探索に必要な様々なモノが入れられている。 ベルトを調節して動いても弛みが出ないか確認し、バックパックをちらと見て、こちらをどうするか考える。入っているのは着替えやら非常食やらロープやら耐水性の高い布など、腰のポーチに入れるのが難しい、そして戦闘時に緊急性の無い大きめの道具類。上手にコンパクトにまとめられているとは言え、背負えば行動が多少なりとも阻害されてしまうだろう。自分に自信がないだけに、そのデメリットが非常に大きく感じられる。 とは言え、大事な財産には違いない。 わずかな葛藤の後、やっぱり背負うことにする。このまま逃げ出す、と言う選択肢もあるから、捨てていくのはもったいない。幸い、テントなどの重めのモノは体格のいい男連中が運んでくれているから重量はさほどではないし、これくらいなら許容範囲だろう。いざとなればその場に落としても良い。そうできるように工夫もされているし。 そうして準備を整えて隣の男部屋へ向かう。 こちらでは、まだ装備を整える途中。魔法使いのブラドノックは既に大丈夫のようだが、鎧を着込まねばならない戦士二人はそうはいかない。 サシカイアはブラドノックと視線を合わせ、シュリヒテの着替えを手伝いにかかる。 上は本人に任せ、その足下にしゃがみ込んで脛当てを止めていく。 ブラドノックの方はギネスを手伝っている。ギネスは手が震えて、留め金一つはめるにも多大な苦労をしている様子。見かねたブラドノックがほとんど代わりにやっている。「畜生、畜生、何だってこんな事になるんだよ。話が違うじゃないか」「口より手を動かせ」 かなり追いつめられた表情でぶつぶつ呟くギネスをシュリヒテが窘め、身体を動かして鎧の固定を確認。サシカイアにも確認させて大丈夫と結論、その上にマントを羽織る。剣を腰に佩き、盾を左手に構える。「どうする? 逃げるか?」「夜の闇の中を逃げるのもぞっとしないし、とどまって戦うのも勘弁だ」 答え、どっちもいや。どちらを選ぶにしろ、勘弁して欲しいというのが本音。 しかし、そうも言ってられないのが現状だろう。相手がこちらの気持ちを汲んでくれるとも思えない。「バリケードを作って、ここに立て籠もるか?」「とにかく、下へ。ここで議論してても仕方ない」 ようやくギネスの装備を整えたブラドノックがもっともなことを提案する。 とにかく、もっと詳しく状況を知らねばならないだろう。そのためには、報告してきた男からいろいろと聞かねばならない。たとえばどっちからどんな敵がせめてきて、どっちへ逃げると良さそうだとか。 揃って部屋から出る。 先頭からシュリヒテ、サシカイア、ブラドノック。殿にギネス。全員腰が引けている。 そして、彼らが階段の上に姿を現すと、宿屋中の人間が視線を向けてきた。皆が、助けを求める視線を向けている。「……勘弁してくれ」 すがるようなその瞳の意味を理解して、サシカイアは口の中で呟く。 見たところ、村人の他に冒険者らしきモノもいるが、どうにも駆け出しの域を出ていないように見える。身のこなしと言うより、装備的な部分からの判断では。 そして、サシカイアらの装備は彼らとは隔絶している。魔法の、あるいは高品質の武器防具に身を固めた自分たちは、きっと経験豊富な凄腕の冒険者に見えているんだろうなあ、とため息混じりに思う。 現実、中身は彼ら以上に完璧な素人。初めての戦いを前に、完全に腰が引けている。まともに戦えるかどうか、はっきり言って自信はない。張り子の虎。助けを求められても困るのである。 なのに、サシカイアらの内心に気がつかない、報告してきた男が叫ぶ。「早く、早く助けてください。見張りをしていた者達が──」 きっと、サシカイア達が装備を整えるのを、じりじりしながら待っていたのだろう。男は入り口のすぐそば、扉も開けたままで、切羽詰まった声表情で身振り手振りを交えて急かす。 勘弁してくれ、頼られても困るよと思いつつも視線を送ったその男の後ろ。扉を開け放しているせいで見えた宿屋の外。そこに、異形の影が見えた。「うし──っ」 後ろと警告するまで、その異形は待ってくれなかった。 サシカイアは一つ世の真理を学んだ。 志村、後ろ、に限らず、こうした場合の警告は絶対に手遅れに終わるのだと。 男は、背後からの攻撃で叩きつぶされた。宿屋の床に赤いモノをまき散らして潰れる。即死。気がつかないまま、一瞬で死ねたのはある意味、幸せだったのかも知れない。「あ、あぁあああ」「いやああああ」 宿屋の中に悲鳴が満ちる。 冒険者も、村人も、宿屋の従業員も、揃って悲鳴を上げる。 サシカイアらは悲鳴を上げなかった。その余裕もなく、揃って硬直していた。目の前で始めてみる人の死。それは、あまりに衝撃的で、悲鳴を上げる余裕すら持ち得なかった。あんなにもあっさりと人は死ぬのだ。その非情な現実。ここは平和な日本じゃないと、お前達も例外じゃないと、現実を突き付けられる。 男を叩きつぶした異形は、その身体に比して小さい入り口に苦労しながら身をかがめ、宿屋の中に入ってくる。 宿屋の照明で、異形の全貌が見えた。 それはまさしく異形の怪物。顔は黒光りする外骨格を持つ蟻なのに、身体は獣毛を生やしたゴリラのモノ。悪夢から飛び出してきたみたいな、訳の分からない怪物。 ゆっくりとその怪物──セージ技能、並びにプレイヤー知識でアザービーストだろうと推測できた──は宿屋の中に視線を巡らせる。そして、もっとも己の近場で立ちつくしてたウェイトレスを次の犠牲者として定めた。 触覚を震わせ、顎をきちきちとならしながら、一歩前へ。アザービーストに接近されて涙目でへたり込んでしまったウェイトレスを前に、先ほど男を叩きつぶして血に塗れた腕を振り上げる。後は振り下ろすだけ。それであっさり娘は死ぬだろう。 サシカイアは動けなかった。頭の中身が見事に空白になってしまっていた。回れ右して逃げ出す、そんなことすら思いつかない。金縛りにあったように、足が、身体が動かない。ただ怖い。ただただ怖い。恐怖が心臓を鷲掴みにし、手足が震える。こうして立っているだけでも辛い。これ以上ないくらいに完璧にびびっている。ぶっちゃけ、ちびりそうだ。いや、秘密だがちょっとちびった。 だが、動いた者がいた。「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 正直、その声は雄叫びと言うには甲高く裏返り、上擦りまくっていた。悲鳴という方が近い。 だが、とにかく声を上げて、シュリヒテが動いていた。一気に階段を駆け下りるとアザービーストに向かう。逃げるためではなく、戦うために。引き抜いた剣が宿屋の照明を反射してきらりと輝く。 シュリヒテの突進に反応したアザービーストが、ウェイトレスを捨て置いて向き直る。明らかにシュリヒテの方が脅威度が高い。そうした判断。両手を広げ、きーきーとした甲高い叫びをあげて待ち受ける。 ──しかし、アザービーストがどれだけ身構えたとしても、何の意味もなかった。 シュリヒテの斬撃はアザービーストの──おそらくは本人も含むそこにいた全員の予想を超える鋭さで。 一撃で、その上半身を斜めに斬り飛ばした。

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