池波正太郎、松本清張、渡辺淳一の小説にかける思い 編集者が回顧〈週刊朝日〉(AERA dot.)

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池波正太郎、松本清張、渡辺淳一の小説にかける思い 編集者が回顧〈週刊朝日〉(AERA dot.)
[MARKOVE] 1922年の創刊から数々の著名人が連載してきた「週刊朝日」。名作誕生の裏側を文芸ジャーナリストであり、週刊朝日編集部OBの重金敦之氏が語る。[/MARKOVE]
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池波正太郎 松本清張 渡辺淳一の小説にかける思い

第二次世界大戦後もアメリカの占領で時代小説の受難は続いたが、その一方で風俗小説が迎えられ、中間小説が人気の焦点となる。しかし村上元三(げんぞう)の『佐々木小次郎』を皮切りとして、夕刊紙の時代小説も復活し、吉川英治『新・平家物語』、源氏鶏太(げんじけいた)『三等重役』など週刊誌を舞台とした長編や連作が話題となり、山岡荘八(そうはち)の『徳川家康』も始まる。昭和30年代に入ると、衣食住の問題もしだいに安定し、生活の技術革新も進み、家庭の主婦層の余暇時間も増え、大衆文学も質的な発展を遂げ、五味康祐(ごみやすすけ)、柴田(しばた)錬三郎らの剣豪リバイバル、松本清張(せいちょう)とその後に続く社会派推理作家の登場、素人(しろうと)作家の相次ぐ誕生などがみられ、テレビの普及に伴う文化の視覚化に抗し文学の独自性を主張する動きも現れる。しかしビジュアルな方向は急速に進み、文学作品もスピードと展開の速さを求められ、情報性を強めてゆく。1960年代の後半に入ると、「現代性」「風俗性」「記録性」はさらに強まり、70年代になると「国際性」「情報性」がそれに加わる。推理やSFの手法は普遍化し、時間や空間の軸を自在にとって現代社会を諷(ふう)する作品も現れ、国際的な諸事件も幅広く取り上げられるようになり、歴史物から企業・経済物にまで情報性が求められる。そして純文学と大衆文学の領域はあいまいとなり、ノン・フィクション物との間も明確でなくなる。これは小説のなかに情報が求められる傾向とも関係があるが、他方では現実の重みから心理的に逃避したいという読者の夢にこたえる作品もみられ、その幅はさらに広げられた。水上勉(みずかみつとむ)、司馬遼太郎(しばりょうたろう)、池波正太郎(しょうたろう)、城山三郎、新田(にった)次郎、黒岩重吾(じゅうご)、渡辺淳一(じゅんいち)、平岩弓枝(ゆみえ)、永井路子(みちこ)、杉本苑子(そのこ)、三浦綾子(あやこ)、宮尾登美子(とみこ)、夏樹(なつき)静子、栗本薫(くりもとかおる)、星新一、小松左京(さきょう)、半村良(りょう)、筒井康隆(つついやすたか)、森村誠一(せいいち)、西村寿行(じゅこう)(1930―2007)、赤川次郎ら多彩な作家が、それぞれの分野で仕事を展開した。素材の多様化、表現の多角化、背景の広角化、情報性の深化などに加えて、視覚・聴覚に強く訴える作品も増え、大衆文学はエンターテインメントとよばれるまでになる。これは文学のマスコミ化の結果であり、社会の多様化の反映である。

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