「肺がん手術では傷口の大きさよりも肺をいかに残せるかが重要
【肺がん手術】患者はどう治療法を選べばいい? 専門医が解説「肺をいかに残すか」
「非小細胞がん」で手術適応になるのはステージI~II期とIII期の一部に限られる。それ以外は抗がん剤などの薬物療法や放射線治療がメインだ。健康寿命が延びているため、手術適応の年齢は拡大している。ガイドラインでも、肺がん手術の適応は患者自身の体力や肺の状態で決まるものであり、年齢で区切ってはいけないという内容が記載されている。現在手術を受けている患者の平均年齢は72~3歳で、10年前から10歳アップしているという。
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肺がん手術では、はじめに手術で安全にがんを取りきることができるのかが考えられる。そのうえで、肺をどれくらい残せるのかが検討される。産業医科大学病院の田中文啓医師は、「目指すべきは肺葉切除」だと話す。
■CTの発達で早期がんが見つかるように 全摘術は、肺の中心部のがんなどに選択される。しかし、全摘術はからだに与えるダメージが大きいため、高齢者や他疾患を併発していて全身状態が悪い場合は避ける傾向にある。そして近年増加しているのが区域切除と部分切除だ。北里大学病院の佐藤之俊医師は説明する。「近年、CTの発達で早期の小さながんが多く見つかるようになりました。区域切除は、高齢で、がんは取りたいけれど肺機能を維持したいという人に選択されていました。しかし、いまはステージIの小さながんが見つかった人にも適応されます。それより更に小さい範囲の切除で済むのが部分切除。がんが小さいことはもちろんですが、患者さんが透析を受けていたり、重い糖尿病を患っていたりした場合、全身状態を考慮して選択されることも。肺を大きく切り取らないという消極的な方法です」 また、部分切除と、ピンポイントで多くの放射線を当てる定位放射線治療(SBRT)は同等の効果がある。肺に特殊な病気がある場合などを除き、極小の初期がんであればSBRTのみで消えることも期待できる。 肺の切除範囲が決まったら、手術のアプローチ方法を考える。従来は胸を大きく切る開胸手術が標準治療だったが、現在は多くが胸腔鏡手術でおこなわれる。胸腔鏡手術とは、1・5~2センチの切り口から棒状のビデオカメラや手術機器を挿入し、モニターを見ながら手術する方法だ。開胸手術よりも術後の痛みが小さく、傷痕も目立たない。■ロボットの発展に期待、精密で正確な手術が可能「開胸手術は小さな切り口からでは操作が難しい複雑な症例に選択されます。がんが心臓の周りの血管や気管支、肩の近くの肋骨や神経にまで広がっているなど、安全性と根治性を確保しなければならない場合です」(佐藤医師) しかし、「傷口が小さいからといって胸腔鏡が優れているわけではない」と田中医師は言う。「肺がん手術では傷口の大きさよりも肺をいかに残せるかが重要。通常の肺葉切除なら傷口の小さい胸腔鏡のほうがいいのはもちろんです。しかし、胸腔鏡で全摘術と開胸で肺葉切除という選択がある場合は、後者を選択したほうがいい。目的と手段を間違えないようにしましょう」
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